懲戒請求について調べていると、遅かれ早かれ一つの壁に突き当たります。処分が出ても、お金は戻ってこないという壁です。
懲戒は規律違反に対する制裁であって、被害回復の手続ではありません。では、預けたお金が返ってこないとき、依頼者には何が残されているのか。
損害賠償を請求する、刑事手続を検討する、といった一般的な方法のほかに、日弁連が設けている制度があります。依頼者見舞金制度です。
どういう制度か
日弁連の説明によれば、この制度は「弁護士の業務に伴い、弁護士が預かり保管していた依頼者の金員を横領する事件が発生した場合」に、被害を受けた依頼者に対して見舞金を支給するものです。
弁護士に資力がなく、損害賠償を求めても回収できないという場面は現実に起こります。そのとき、弁護士全体で被害の一部を負担しようという発想で作られた制度です。
名称のとおり「見舞金」であり、損害を全額補填する保険ではありません。この位置づけは、制度を検討するうえで重要です。
対象となる要件
日弁連が示している要件は次のとおりです。
- 依頼者本人または依頼者に準じる方(自然人に限る)であること
- 2017年4月1日以降に横領があったこと
- 被害金額が30万円を超えること
法人は対象になりません。また、対象となるのは横領の被害です。事件処理の失敗や説明不足による損害は、この制度ではなく損害賠償の問題として扱われます。
金額の枠
上限も定められています。
- 被害者1人当たり500万円の枠内で決定
- 同一の弁護士による複数の被害がある場合、弁護士1人につき総額2,000万円の枠内で決定
同じ弁護士による被害者が多数にのぼる場合、2,000万円という総枠の中で配分されることになります。
そして日弁連は「支給が確約されたものではなく、また、必ず被害額の満額が支給されるものではありません」と明記しています。申請すれば必ず受け取れる制度ではないという点は、期待値の設定として押さえておく必要があります。
期限
この制度にも期限があります。
財産を失ったことを知った時から3年を経過した場合、または対象行為の時から5年を経過して申請した場合は、原則として支給の対象外とされています。
懲戒手続の除斥期間(弁護士法63条・懲戒の事由があったときから3年)とは別のカウントです。二つの期限は連動していません。懲戒請求のことを考えているうちに見舞金の期限を過ぎる、という事態を避けるために、それぞれの起算点を分けて管理してください。
申請の流れ
手続の流れは次のように案内されています。
- 申請書と資料を弁護士会に提出する
- 日弁連から受理通知が送られる
- 調査委員会が設置され、調査が行われる
- 日弁連会長が支給の可否と金額を決定し、結果が通知される
窓口は弁護士会です。調査が入るため、申請から結果までには相応の時間がかかります。
何を手元に残しておくか
横領の被害を主張するには、預けた事実と、返還されていない事実を示す資料が必要になります。
- 委任契約書、預り金に関する取り決めの書面
- 振込明細、通帳の記録、領収書
- 精算や返還を求めたやり取り(メール、書面)
- 相手方から支払われた金銭がある場合、その入金経路が分かる資料
とくに「弁護士に渡した」ことと「自分に戻っていない」ことの両方が確認できる形になっているかが重要です。口頭でのやり取りしか残っていない場合は、時系列のメモだけでも早い段階で作成しておくことをおすすめします。
制度は並行して使える
見舞金の申請と、懲戒請求と、損害賠償請求は、それぞれ別の手続です。どれか一つを選ばなければならないわけではありません。
ただし、目的はそれぞれ違います。
- 見舞金:被害の一部を補う
- 損害賠償:被害の回復を相手に求める
- 懲戒請求:規律違反として処分を求める
金銭の回復が最優先であれば、見舞金と損害賠償の検討が先になります。関係する手続の全体像については、懲戒請求の前に使える2つの窓口も合わせて確認してください。
出典:日本弁護士連合会「依頼者見舞金制度について」(日弁連ウェブサイト)