弁護士とのトラブルは、その場ですぐ決着がつくとは限りません。事件が終わってしばらく経ってから、当時のやり取りに問題があったと気づくこともあります。
そのとき最初に確認すべきなのが、期限です。弁護士法63条は「懲戒の事由があつたときから三年を経過したときは、懲戒の手続を開始することができない」と定めています。
「時効」ではなく「除斥期間」
3年という期間は、除斥期間と呼ばれるものです。時効と似ていますが、性質が違います。
消滅時効であれば、請求や承認によって完成が猶予されたり、更新されたりします。相手に催告すれば延びる、という調整が働きます。
除斥期間にはこうした仕組みがありません。事由があったときから3年が経てば、それだけで手続を開始できなくなります。交渉していた、話し合いを続けていた、体調を崩していた——どのような事情があっても、期間そのものは動きません。
なぜこのような厳しい区切りが置かれているのか。弁護士にとって懲戒手続に付されること自体が信用に関わる重大な事態であり、いつまでも手続の可能性にさらし続けることは相当でない、という考え方が背景にあると説明されています。制度が対象者の立場も考慮して設計されている、ということです。
起算点は「事由があったとき」
条文が起算点としているのは「懲戒の事由があつたとき」です。請求する人が問題に気づいたときではありません。
ここが実務上いちばん悩ましい部分です。たとえば、事件が終わってから数年後に、当時の処理に問題があったと知った場合。知った時点から3年ではなく、その処理が行われた時点から数えることになります。気づいたときにはすでに期間が経過していた、という事態が起こり得ます。
問題となる行為が一度きりではなく、長期間にわたって続いていた場合の起算点も、単純ではありません。放置が続いた期間全体をどう評価するか、精算をしないまま経過している状態をどう捉えるか——事案の性質によって考え方が変わり得る部分です。
したがって、3年が経過しているかどうか微妙な段階で自己判断で諦めてしまうのは避けたほうがよいでしょう。判断するのは弁護士会です。
実務的な結論は「早く動く」
制度の細かい議論はさておき、依頼者の側でできることははっきりしています。
気づいた時点で記録を固めること。時間が経つほど、メールは削除され、通帳は繰り越され、記憶は曖昧になります。除斥期間の問題以前に、証拠が失われることのほうが現実的なリスクです。
残しておきたいものを挙げます。
- 委任契約書、報酬に関する書面
- 着手金・実費・預り金の振込明細や領収書
- 弁護士や事務所とのメール、メッセージのやり取り
- 提出された書面や、裁判所から届いた書類の控え
- 打ち合わせの日時と内容のメモ
特に日付が分かる形で残すことが重要です。「いつ何があったか」を再現できるかどうかが、後になって効いてきます。
それぞれの手続で期限が違うことを知っておくこと。懲戒手続の3年とは別に、金銭を取り戻す手続にはそれぞれの期間制限があります。
たとえば、預り金の横領被害に対する日弁連の依頼者見舞金制度では、財産を失ったことを知った時から3年を経過した場合、または対象行為の時から5年を経過して申請した場合は原則として支給対象外とされています。損害賠償請求についても、民法が定める消滅時効が別に働きます。
懲戒請求の期限だけを見ていると、金銭回復の窓口の期限を逃すことがあります。逆もまた同じです。
「まだ依頼中」の場合
現在も事件を依頼している最中に問題を感じている場合、判断はさらに難しくなります。手続を進めれば、対象の弁護士にその内容が伝わります。関係が続いたまま事件を進めることになるからです。
このとき優先すべきなのは、進行中の事件を守ることです。期限が迫っている手続はないか、記録や書類は手元にあるか、引き継ぐとすれば誰に頼むのか。事件の安全を確保したうえで、懲戒手続をどうするかを考える順序になります。
除斥期間が迫っているという理由だけで焦って請求を出し、事件のほうが宙に浮いてしまっては本末転倒です。次の依頼先を探す必要があるなら、弁護士を検索して先に相談だけでも進めておくと、選択肢を持ったまま判断できます。