懲戒処分

なぜ弁護士には懲戒制度があるのか|弁護士自治とセットで生まれた仕組み

弁護士マップ編集部
4分で読める

医師の行政処分は厚生労働大臣が行い、運転免許の取消しは公安委員会が行います。国家資格の多くは、監督官庁が処分の権限を持っています。

ところが弁護士だけは違います。弁護士を処分できるのは、その弁護士が所属する弁護士会と日本弁護士連合会(日弁連)だけです。法務大臣にも裁判所にも、弁護士を処分する権限はありません。

これは制度の抜け穴ではなく、意図的に作られた設計です。なぜそうなっているのかを知ると、懲戒請求という制度の性格も見えてきます。

「同業者が裁く」ことを、あえて選んだ理由

弁護士の仕事には、国家権力と正面から対立する場面が含まれます。刑事事件で検察官と争い、行政訴訟で国や自治体を訴え、時には国の政策そのものを法廷で問う。これが弁護士の職務です。

もし弁護士の監督権を国が握っていたらどうなるか。国にとって都合の悪い活動をする弁護士に対して、「品位に問題がある」という理由で業務停止処分を出すことが、制度上は可能になってしまいます。処分をちらつかせるだけでも、弁護活動は萎縮します。

これを避けるために採用されたのが、弁護士自治という考え方です。弁護士の登録も、会則の制定も、そして懲戒も、弁護士会が自分たちで行う。国の監督を受けない代わりに、自分たちで自分たちを規律する義務を負う——この交換条件が、弁護士自治の中身です。

懲戒制度は、その「自分たちで規律する」部分を担う仕組みです。弁護士自治のおまけではなく、自治が成り立つための前提条件として置かれています。

弁護士法56条が定める、処分の理由

弁護士法56条1項は、懲戒の事由をこう定めています。法令や会則に違反したとき、所属弁護士会の秩序または信用を害したとき、そして「その他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があつたとき」。

注目したいのは「職務の内外を問わず」という部分です。依頼を受けた仕事の中での失敗だけでなく、職務と関係のない場面での行いも懲戒の対象になり得ます。弁護士という資格に対する社会の信頼そのものを守るための規定で、これも自治を維持するための厳しさの一部だと言えます。

処分の種類は弁護士法57条に4つ定められています。戒告、2年以内の業務の停止、退会命令、除名。除名されれば弁護士としての活動はできなくなります。国の関与なしに職業を奪う効果を持つ処分ですから、その分だけ手続には慎重さが求められます。

「身内に甘いのでは」という疑いへの答え

同業者が同業者を裁く仕組みには、当然の疑いがついてまわります。仲間内でかばい合うのではないか、という疑問です。

制度の側も、この批判に無自覚だったわけではありません。いくつかの仕掛けが用意されています。

ひとつは、懲戒請求を「何人も」できるようにしたことです。弁護士法58条1項は、依頼者や事件の相手方に限らず、誰でも懲戒を求められると定めています。被害者以外の目からも問題行為を持ち込めるようにした設計です。

もうひとつは、審査に弁護士以外の人が加わることです。審査を担当する委員会には弁護士以外の委員も参加します。さらに、弁護士会が「懲戒しない」と決めた事案について最後に判断する日弁連の綱紀審査会は、弁護士・裁判官・検察官およびその経験者を除いた学識経験者だけで構成されます。法律家ではない市民の目で、身内判断を点検する仕組みです。

そして、懲戒処分は官報に公告されます。処分が外から見える形で残るという点も、自治に対する外部からのチェックとして働いています。

依頼者にとって、この仕組みは何を意味するか

弁護士自治から出発している以上、懲戒制度には最初から限界があります。

第一に、懲戒は制裁であって被害回復ではありません。処分が出ても、預けたお金が自動的に戻ってくるわけではありません。お金の問題はお金の問題として、別の手続で解決する必要があります。

第二に、誰かが申し出なければ動きません。弁護士会が自ら手続を始めることもできますが、実際に問題を知る立場にいるのは依頼者や相手方です。声を上げる人がいなければ、制度は空回りします。

第三に、処分歴がないことは「問題がない」証明にはなりません。処分は結果であって、保証ではないからです。

弁護士を選ぶときは、この制度の存在を知ったうえで、契約内容や費用の説明が明確かどうかを自分の目で確かめることが現実的です。弁護士を検索して候補を比べるときも、面談の場で確認できることは思っている以上に多くあります。

次の記事では、その懲戒請求を実際に誰ができるのか、条文の「何人も」という言葉が何を意味するのかを見ていきます。

この記事をシェア

弁護士を探してみる

全国48,000名以上の弁護士情報・口コミ・懲戒処分歴を無料で確認できます。