懲戒請求について調べていると、「認められるのは数%」といった話をよく見かけます。この数字がどこから来ているのか、そして何を意味しているのかを、一次資料にあたって確認してみます。
日弁連は毎年、各弁護士会に持ち込まれた懲戒請求事案の集計を「懲戒請求事案集計報告」として公表しています。ここで使うのは2024年(暦年)分の集計です。
2024年の全体像
まず、その年に新しく受け付けられた事案(新受)が3,243件。
これに対して、その年に処理が終わった事案の内訳は次のとおりです。
- 懲戒処分に至ったもの:99件
- 懲戒しないとされたもの:3,103件
- 終了(資格喪失や死亡などにより手続が終わったもの):23件
そして年末時点で結論が出ていない未済が217件残っています。
処理された事案は合計3,225件ですから、そのうち懲戒処分に至った割合は約3%ということになります。よく言われる「数%」という数字の根拠は、おおむねこの計算です。
ただし注意が必要です。ある年に受け付けた事案がその年のうちに処理されるとは限らないため、新受件数と既済件数は同じ母集団ではありません。「3,243件のうち99件が処分された」という言い方は、厳密には正しくありません。
処分99件の内訳
処分の中身も公表されています。2024年の内訳は次のとおりです。
| 処分の種類 | 件数 |
|---|---|
| 戒告 | 60件 |
| 業務停止(1年未満) | 28件 |
| 業務停止(1年以上2年以下) | 5件 |
| 退会命令 | 3件 |
| 除名 | 3件 |
| 合計 | 99件 |
最も多いのは戒告で、99件のうち60件を占めます。戒告は弁護士に反省を求め、戒める処分です。業務停止は合わせて33件、資格や所属に関わる退会命令・除名は6件でした。
弁護士法57条は処分を戒告・2年以内の業務の停止・退会命令・除名の4種類と定めていますが、実際の運用では重い処分ほど件数が少なくなる分布になっています。
件数は年によって大きく動く
過去の数字を並べると、新受件数が安定していないことが分かります。
| 年 | 新受件数 | 懲戒処分 |
|---|---|---|
| 2017年 | 2,864件 | 106件 |
| 2018年 | 12,684件 | 88件 |
| 2019年 | 4,299件 | 95件 |
| 2020年 | 2,254件 | 107件 |
| 2021年 | 2,554件 | 104件 |
| 2022年 | 3,076件 | 102件 |
| 2023年 | 2,587件 | 114件 |
| 2024年 | 3,243件 | 99件 |
2018年だけ突出しています。前年の4倍以上です。
この理由は、日弁連自身が注記しています。一人で100件以上の懲戒請求をした事案が4例(合計1,777件)あったこと、特定の会員に対する同一内容の懲戒請求が8,640件あったことなどによる、とされています。同じ内容の請求が大量に提出された結果です。
2022年に3,000件を超えたときも同様の注記があり、一人で100件以上の請求をした事案が4例(合計1,097件)あったことなどが挙げられています。2024年についても、一人で100件以上の請求をした事案が3例(合計634件)あったと記載されています。
つまり新受件数は、弁護士に対する不満の量をそのまま表す指標ではありません。一部の大量請求に強く影響される数字です。年ごとの増減を「トラブルが増えた/減った」と読むのは適切ではないということになります。
一方で懲戒処分の件数は、88件から114件の間でおおむね安定しています。請求の量が10倍近く変動しても処分の数はほとんど動かない——このコントラストが、審査が請求の量ではなく中身で行われていることを示しています。
不服申立ての段階の数字
弁護士会が「懲戒しない」と決めた場合、請求した人は日弁連に異議を申し出ることができます。この段階の数字も公表されています。
2024年、日弁連の綱紀委員会が受け付けた異議の申出は1,204件(懲戒しない旨の決定に対するもの1,099件、相当の期間内に手続が終わらないことに対するもの105件)。処理された769件のうち、「審査相当」——つまり弁護士会の判断を覆して審査に進めるべきだとされたものは5件でした。
さらにその先の綱紀審査の申出は、2024年の新受が341件。処理された387件のうち審査相当とされたものは0件でした。過去10年でも、審査相当の件数は年によって0件から数十件の幅にとどまっています。
判断がひっくり返る例が皆無というわけではありませんが、後の段階になるほど数は絞られます。最初の請求の段階で、事実と裏づけを尽くしておくことの重要性が、この数字からも読み取れます。
数字の使い方
これらの数字は、制度への期待を下げるために示したものではありません。何を目的に手続を選ぶかを決めるための材料です。
処分を求める手続と、被害を回復する手続は別のトラックにあります。金銭の返還や損害の回復が目的であれば、弁護士会の紛議調停など、別の制度のほうが目的に近いことがあります。
出典:日本弁護士連合会「2024年懲戒請求事案集計報告」(統計・調査)