弁護士会から届いた通知に「懲戒しない」と書かれていた。手続はここで終わりなのか——そう思う人は多いのですが、続きがあります。
弁護士法は、懲戒請求をした人のために二段階の不服申立てを用意しています。日弁連への異議の申出と、綱紀審査の申出です。それぞれ期限が決まっており、しかもその期限は短めです。
第一段階:日弁連への異議の申出(3か月以内)
弁護士法64条は、弁護士会が懲戒しない旨の決定をしたとき、または相当の期間内に懲戒の手続を終えないときに、請求した人が日弁連に異議を申し出ることができると定めています。
条文が想定している場面は二つあります。ひとつは「懲戒しない」という結論が出た場合。もうひとつは、いつまでたっても結論が出ない場合です。手続が止まったまま放置されることへの不服も、申立ての対象になっています。
期限は、決定の通知を受けた日の翌日から起算して3か月以内です。通知が届いた日ではなく翌日から数える点、そして3か月という区切りを、通知を受け取った時点で押さえておく必要があります。
異議の申出があると、日弁連の綱紀委員会が審査を行います。弁護士会が出した「懲戒しない」という判断が妥当だったかを、別の組織が見直す形です。
なお、懲戒処分は出たけれども内容が軽すぎると考える場合にも異議の申出ができます。この場合は日弁連の懲戒委員会が扱います。2024年の受付件数は26件でした。
第二段階:綱紀審査の申出(30日以内)
日弁連が異議の申出を却下または棄却した場合、さらにもう一段あります。弁護士法64条の3に定められた綱紀審査の申出です。
期限は、日弁連から却下または棄却の決定の通知を受けた日の翌日から起算して30日以内。第一段階よりさらに短く、1か月を切ります。
この段階を担当する綱紀審査会には、他の委員会にはない特徴があります。委員が、弁護士・裁判官・検察官およびそれらの経験者を除いた学識経験者だけで構成されているのです。法律家ではない立場の目で、弁護士会と日弁連の判断をもう一度点検する——同業者による判断で完結させないための仕組みが、制度の最後に置かれています。
申出は、郵便・信書便または持参によって提出します。郵便については消印有効とされています。申出書は正本1通と副本2通(対象となる弁護士が1人の場合)をA4判横書きで提出する、といった様式も定められています。オンラインで完結する手続ではないため、期限が迫っている場合は郵送にかかる日数も計算に入れておく必要があります。
実際にどれくらい通るのか
日弁連が公表している2024年の集計から、この二段階の実情を確認できます。
異議の申出(懲戒しない旨の決定などに対するもの)は、2024年に1,204件が受け付けられました。処理された769件のうち、「審査相当」——弁護士会の判断を覆して審査に進めるべきだとされたものは5件です。
綱紀審査の申出は、2024年の新受が341件。処理された387件のうち、審査相当とされたものは0件でした。過去10年をさかのぼっても、審査相当となった件数は年に0件から数十件の範囲にとどまります。
数字だけを見れば、判断が覆る例は多くありません。制度としては用意されているものの、後の段階になるほど通りにくくなるのが実態です。
だからこそ、最初が勝負になる
この数字から導かれる実務的な結論は、はっきりしています。不服申立ての段階で新しい材料を出して逆転を狙うのではなく、最初の請求の時点で事実と裏づけを出し切っておくことが重要だ、ということです。
異議の申出も綱紀審査も、原則として同じ事案を別の目で見直す手続です。手元にあったのに出さなかった資料を後から追加できる場面もありますが、それを前提に組み立てるのは危険です。
最初の請求書を作る段階で、次の点を確認しておくと、後の段階での消耗を避けられます。
- 主張している出来事が、いつ・どこで・何があったかという形で書かれているか
- それぞれの出来事に、確認できる材料(契約書、振込記録、メール、書面の控えなど)が紐づいているか
- 評価や感想と、事実の記述が混ざっていないか
期限の管理を最優先に
3か月と30日。この二つの期限は、決定の通知を受けた翌日から数え始めます。届いた通知の封筒や受領日を記録しておくことをおすすめします。
そして、懲戒手続とは別に、弁護士法63条が定める除斥期間(懲戒の事由があったときから3年)という区切りもあります。手続の入口の期限と、不服申立ての期限は別物です。混同すると、どちらかを取り逃がします。