懲戒処分

懲戒請求は誰ができるのか|「何人も」と書かれた条文の意味

弁護士マップ編集部
4分で読める

弁護士に問題があると感じたとき、多くの人が最初に思うのは「自分に請求する資格があるのだろうか」ということです。依頼者ではないから、直接の被害者ではないから、という理由で諦めてしまう人もいます。

結論から書くと、資格の制限はありません。弁護士法58条1項は「何人も、弁護士又は弁護士法人について懲戒の事由があると思料するときは、その事由の説明を添えて、その弁護士又は弁護士法人の所属弁護士会にこれを懲戒することを求めることができる」と定めています。

「何人も」——つまり誰でもです。

利害関係がいらない、という珍しい設計

日本の法制度では、何かを申し立てるときに利害関係を求められるのが普通です。訴訟を起こすには当事者でなければならず、行政に不服を申し立てるにも一定の資格が要ります。

懲戒請求はここが違います。請求できるのは、たとえば次のような立場の人です。

  • その弁護士に依頼した本人
  • 事件の相手方、つまり自分の敵側の代理人だった弁護士に対して
  • 相手方の親族や関係者
  • 事件とまったく関係のない第三者

なぜここまで広いのか。弁護士の非行が、依頼者だけを傷つけるとは限らないからです。相手方に対する不当な言動、裁判所に対する虚偽の説明、資格のない業者と組んで事件を扱う行為。これらは依頼者から見れば「よくやってくれた」と映ることさえあります。被害を受けた側からしか請求できない制度にすると、こうした行為が誰からも持ち込まれなくなってしまいます。

弁護士に対する社会の信頼を守るための制度だから、請求権者を絞らない。これが「何人も」の理由です。

弁護士会が自分で始めることもできる

請求を待つだけの制度でもありません。弁護士法58条2項は、弁護士会が所属の弁護士について懲戒の事由があると考えたときも、懲戒の手続に付して綱紀委員会に調査させなければならないと定めています。

報道や裁判の経過から問題を把握した場合など、外部からの請求がなくても手続は始まります。実際、日弁連が公表している集計でも、新受件数は「各弁護士会宛てになされた懲戒請求事案に弁護士会立件事案を加えた数」とされています。

匿名ではできない

誰でも請求できるとはいえ、名前を伏せたまま請求することはできません。条文が求める「事由の説明」を添えた書面には、請求する人の氏名や住所を記載します。そして手続の中で、その内容は対象の弁護士に伝わります。

相手に知られたくないという理由で匿名を望む人は少なくありませんが、対象となる弁護士には反論の機会が保障されなければならず、誰が何を主張しているのかが分からないままでは審査が成り立ちません。制度の公平性の裏返しとして、請求する側も名前を出すことになります。

現在も依頼している弁護士について請求を考えている場合は、この点が実務上の分かれ道になります。関係が続いたまま手続が進むことになるため、事件をどう引き継ぐかを先に考えておく必要があります。

「誰でもできる」ことの副作用

門戸を広く開けた制度には、副作用もあります。同じ内容の請求が特定の弁護士に大量に集まる、という現象です。

日弁連の集計には、この副作用がはっきりと数字で表れています。2018年の新受件数は12,684件で、前年(2017年・2,864件)の約4倍に跳ね上がりました。日弁連はその理由として、一人で100件以上の懲戒請求をした事案が4例(合計1,777件)あったこと、特定の会員に対する同一内容の懲戒請求が8,640件あったことなどを挙げています。

呼びかけに応じて多数の人が同じ書面を出す、という形の請求です。件数だけを見れば制度が活発に使われているように見えますが、実態は一つの主張が複製されたものでした。

こうした請求は、審査する側の負担になるだけでなく、請求した人自身が損害賠償を求められる事態にもつながりました。誰でもできることと、何を書いても許されることは、まったく別の話です。根拠を欠く請求が損害賠償の対象になり得る点は、このシリーズの別記事で扱います。

請求できることと、通ることは別

資格の面では誰にでも開かれた制度ですが、開かれているのは入口だけです。中身に根拠がなければ、審査の最初の段階で終わります。

依頼者であれば契約書や振込の記録、やり取りのメールなど、手元に事実を裏づける材料があります。第三者の場合、公開されている情報だけで何が起きたかを説明しなければならず、実際にはハードルが高くなります。

自分が請求できる立場かどうかで迷う必要はありません。迷うべきなのは、説明できる事実と、それを裏づける材料が手元にあるかどうかです。

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