弁護士は暴力団を弁護してはいけないのか
「弁護士は誰でも弁護する」というイメージがある。確かに刑事事件では、被告人がどんな人物でも適切な弁護を受ける権利がある(憲法第37条)。これは弁護士の使命の重要な部分だ。
しかし、それとは別の問題がある。弁護士が暴力団組織と継続的・組織的に提携することは禁止されている。さらに2010年代以降の暴力団排除条例の整備により、業界全体で反社会的勢力との関係を断ち切る動きが進んできた。
この境界線と、依頼者として何を確認できるかを解説する。
弁護士の倫理規程と反社対応
日弁連は「弁護士職務基本規程」を定めており、その第14条で反社会的勢力との関係を排除するよう努めることを規定している。
具体的に問題視される行為:
- 暴力団組織の顧問弁護士になること
- 暴力団員からの組織的・継続的な依頼を受けること
- 暴力団員の便宜のために法律事務を遂行すること
- 暴力団員と社交的に親密な関係を持つこと
これらに該当すれば、懲戒処分の対象となる。重大な事案では除名処分もありうる。
「個別の刑事事件」と「組織的関係」の違い
注意したいのは、「個別の刑事事件で暴力団員を弁護すること」と「組織的に暴力団と提携すること」は別という点だ。
刑事事件の被告人が暴力団員であっても、適切な弁護を受ける権利は憲法上保障される。これを弁護するのは弁護士の正当な業務であり、何ら問題ない。
禁止されるのは、組織と継続的な関係を持ち、組織の利益のために法律事務を遂行することだ。両者は明確に区別される。
暴力団排除条例の影響
2010〜2011年にかけて、全国の都道府県で暴力団排除条例が施行された。この条例は弁護士を含む全事業者に対し、反社会的勢力との取引を禁止している。
条例の具体的な影響:
- 暴力団員・組織からの委任を受けることが禁止される
- 違反した場合、事業者名が公表される
- 警察に対する協力義務がある
- 反社会的勢力との取引を防ぐ内部統制が求められる
弁護士事務所もこの条例の対象であり、暴力団組織からの依頼を継続して受ければ、条例違反として処分の対象になる。
実際の懲戒事例
日弁連の「自由と正義」誌や弁護士マップの懲戒処分データベースには、反社対応に関する懲戒事例が含まれる。実例として:
- 暴力団組織の顧問弁護士業務を継続した弁護士: 業務停止1年〜2年
- 暴力団員からの組織的依頼を受け続けた弁護士: 退会命令
- 暴力団員の便宜のため法律事務を遂行: 除名処分
- 暴力団員との社交的関係が問題視: 戒告
これらは個別事案の処分例で、具体的な処分は事案の重大性により異なる。
民暴弁護士という仕事
暴力団に関する弁護士業務には、もう一つの側面がある。それが「民事暴力対策(民暴)」分野だ。
民暴弁護士の役割
暴力団被害者を弁護する弁護士のこと。具体的には:
- 暴力団から金銭を要求された被害者の弁護
- 暴力団組長への民事責任追及(使用者責任の追及)
- 不当要求対策の助言
- 企業の反社対策支援
これは社会的に重要な活動で、暴力団排除の最前線にいる弁護士たちだ。一部の弁護士事務所は民暴分野に注力しており、企業の反社チェックや暴力団被害者の救済を専門的に行っている。
民暴弁護士へのリスク
民暴弁護士は暴力団と対峙するため、自身の身に危険が及ぶこともある。過去には民暴弁護士が暴力団員に襲撃される事件もあった。
各弁護士会には民暴対策委員会があり、こうした弁護士をサポートする体制を整えている。
依頼者として確認できること
弁護士に依頼する際、その弁護士が反社対応で問題がないかを確認する手段は限られているが、いくつかある。
1. 懲戒処分歴の確認
懲戒処分データベースで、反社関連の処分歴がないかを確認する。重大な事案で処分された弁護士は記録される。
2. 所属事務所の事業内容
弁護士マップの事務所検索で、その事務所がどのような分野を扱っているかを確認できる。民暴対策や企業法務に注力している事務所は、反社対策にも厳格な姿勢を持つことが多い。
3. 所属弁護士会への照会
所属弁護士会の市民窓口に、その弁護士について問い合わせることもできる。匿名での照会も可能だ。
4. 一般的な信頼性指標
反社に限らない一般的な信頼性指標として:
- 弁護士登録から長い年数経過していて懲戒なし
- 業務スタイルが透明(料金表公開、契約書をきちんと作る)
- 過剰な営業活動をしていない
これらの基本的な指標が満たされている弁護士は、反社対応でも問題が少ない可能性が高い。
弁護士法人・大手事務所の反社対応
企業法務を扱う大手弁護士事務所は、独自の反社チェック体制を持つことが多い。
典型的な体制:
- 新規依頼受任時の反社チェック(クライアントが反社関連でないかを調査)
- データベースとの照合(業界共通の反社情報DB)
- 警察庁の暴力団情報照会システムの活用
- 内部統制責任者の設置
こうした事務所では、依頼を受ける段階で組織的に反社チェックを行っている。
業界全体の取り組み
日弁連と各弁護士会は、業界全体での反社対応を進めている。
- 民暴対策委員会の設置(全国レベルと各弁護士会レベル)
- 反社対応に関する研修
- 暴力団排除条例への対応指針
- 民暴弁護士へのサポート体制
これらの取り組みは継続的に進化しており、業界全体で反社会的勢力との関係断絶を目指している。
結論:弁護士業界の自浄作用
弁護士業界には、反社会的勢力との関係を断ち切るための制度的な仕組みが整備されている。倫理規程による禁止、条例による法的制約、業界団体による研修、そして問題があれば懲戒処分による排除——これらが組み合わさって機能している。
依頼者として、この仕組みの存在を知り、懲戒処分データベースで過去歴を確認することで、信頼できる弁護士を選びやすくなる。
弁護士業界は完璧ではないが、自浄作用のための制度的設計を持つ業界だ。それを活用することが、依頼者の利益を守ることにつながる。