市場データ

弁護士は「東京に集中」しているのか――全国48,541名の分布データから読む法律アクセスの現実

弁護士マップ編集部
9分で読める

弁護士を「近くで探す」という行為の難しさ

離婚協議が泥沼化した、会社から不当解雇を告げられた、相続でトラブルが起きた――。こうした局面で「近くの弁護士に相談したい」と考える人は多い。ところが、その「近く」に弁護士がどれほどいるかは、住んでいる地域によって極端に異なる。

全国のDB登録ベースで集計された弁護士総数は48,541名(2026年6月時点)。一見すると大きな数字に見えるが、その分布を都道府県別に分解すると、単純な人口比や面積比では説明できない偏在が浮かび上がる。

この記事では数字を羅列するのではなく、「なぜこうなっているのか」「その構造は依頼者に何を意味するのか」という視点から読み解いていく。


東京と地方の「240倍格差」――数字が示す現実

都市集中の実態

都道府県別の弁護士数TOP10は以下の通りだ。

順位都道府県弁護士数
1東京都24,450名
2大阪府5,265名
3愛知県2,226名
4神奈川県1,851名
5福岡県1,517名
6北海道1,105名
7兵庫県1,065名
8埼玉県1,011名
9千葉県937名
10京都府897名

この10都府道だけで合計39,324名となり、全体の約81%を占める。残り37県に存在する弁護士は全国の2割弱にすぎない。

下位県との落差

一方、弁護士数が少ない下位5県は次の通りだ。

都道府県弁護士数
山形県101名
徳島県95名
高知県90名
島根県78名
秋田県77名

下位5県の平均は約88名。東京都(24,450名)との比率は実に約278倍という計算になる。下位の平均をより広く取っても、東京都との差は圧倒的だ。提供されたデータが示す「下位平均102名/県」という指標と東京の24,450名を比べると、その倍率は約240倍に達する。

「都市に集中している」という感覚的な理解は正しいが、240倍という数字はその深刻さを改めて浮き彫りにする。


なぜこれほどの偏在が生じているのか

経済規模と案件量の相関

弁護士の業務は「案件」によって成立する。企業法務、M&A、大規模訴訟、金融取引――こうした案件の多くは大都市圏、とりわけ東京に集積している。上場企業の本社が東京に集中しているという経済的事実が、弁護士需要の地理的分布を規定する最大要因の一つだ。

また、大規模な弁護士事務所が東京・大阪に集中していることで、そこへの就職を志望する若手弁護士も自然と都市部に流入しやすい構造がある。人が集まれば案件も集まり、案件が集まれば人も集まる――という正のフィードバックが長年にわたって積み重なった結果が、現在の分布だと解釈できる。

司法インフラの集中

裁判所の規模や数も都市部に偏在している。高等裁判所(東京・大阪・名古屋・広島・福岡・仙台・札幌・高松の8か所)の所在地と弁護士集積地を重ねると、概ね対応していることがわかる。上位10都府道のうち、北海道(札幌)・福岡・愛知(名古屋)・大阪・東京はいずれも高裁所在地だ。

司法インフラが整備された地域には弁護士が定着しやすく、そうでない地域では移住・開業のハードルが上がる。

人口だけでは説明できない部分

ただし、人口と弁護士数が必ずしも比例しているわけではない点にも注意が必要だ。たとえば神奈川県の人口は900万人超で全国2位だが、弁護士数では4位(1,851名)にとどまる。大阪府(人口約880万人、弁護士5,265名)との差は大きい。この乖離は「県民が東京または大阪の弁護士に依頼している」という実態を反映している可能性がある。

地理的には東京圏に属する埼玉・千葉・神奈川は、それぞれ1,000名前後の弁護士を抱えながら、多くの案件が実質的に東京の事務所で処理されているとみられる。


「弁護士過疎」が依頼者に意味すること

アクセス障壁の多層構造

弁護士が少ない地域に住む人が直面するのは、単純な「選択肢の少なさ」だけではない。問題は多層的だ。

第一層:物理的距離

秋田県(77名)や島根県(78名)では、専門性の高い弁護士に会うために、場合によっては県庁所在地まで数時間かけて移動する必要が生じることがある。

第二層:専門分野の偏り

弁護士が少ない地域では、各弁護士が広範な分野を担当せざるを得ない場合が多い。労働問題・知的財産・医療過誤・国際取引といった高度な専門性を要する分野で、地域内に複数の選択肢を持てるかどうかは、人口規模によって大きく異なる。

第三層:費用と情報の非対称性

地域内の弁護士数が少ないと、費用水準の比較が難しくなる。依頼者が費用の妥当性を判断するためには、複数の弁護士から見積もりを取る必要があるが、そのこと自体が地方では難しい。費用の目安を知りたい場合は 費用相場 を参照することで、地域差を含めた概観を把握することができる。

オンライン相談が「補完策」として機能し始めているか

新型コロナウイルス感染拡大以降、弁護士によるオンライン相談・ビデオ会議の普及が進んだ。地方在住者が東京の弁護士に依頼するケースも技術的には容易になっており、物理的な偏在を「ある程度」は補完できる環境が整いつつある。

とはいえ、証拠の受け渡しや調停・審判への同行など、物理的なサポートが必要な局面は依然として多い。オンラインはあくまで補完手段であり、構造的な偏在を解消するものではないという認識が必要だ。


大都市圏の「過密」が持つもう一つの側面

競争と分業の進展

東京24,450名という数字は、単に「依頼者にとって選択肢が多い」を意味するだけでなく、弁護士間の競争と高度な分業化が進展していることも示唆する。

大都市では特定分野に特化した弁護士が存在しやすい。企業再生、著作権、外国人支援、医療事故――こうしたニッチな専門分野でも「その分野に集中して経験を積んだ弁護士」に出会える確率は、当然ながら東京のほうが高い。

情報過多のリスク

一方で、弁護士数が多い地域では「どの弁護士に相談すればよいかわからない」という情報過多の問題も生じる。弁護士を検索 するにあたっては、地域・分野の絞り込みだけでなく、弁護士会への登録状況や経歴など客観的な情報を確認することが依頼者にとっての出発点となる。

また、弁護士数が増加するにつれて、残念ながら懲戒処分を受ける件数も一定数存在する。懲戒処分は各弁護士会が公開しており、依頼前の情報確認として 懲戒処分データベース を活用することは、リスク管理の観点から有意義だ。


市場規模と構造の変化を読む

48,541名という数字の重み

2026年時点で48,541名という弁護士総数は、司法制度改革(2001年の司法制度改革審議会意見書)以降の法曹人口拡大政策の累積的な結果として形成されている。2000年代初頭の弁護士総数が約2万名程度であったことと比較すると、約四半世紀で倍増以上の規模に達していることになる。

この増加が需給バランスにどう影響しているかは、地域によって全く異なる。東京・大阪のような大都市では競争が激しく、地方では依然として弁護士不足の状態が続いている――という「二極化」が同時進行している点が、この市場の特異性といえる。

弁護士1名あたりの人口で考える

別の切り口として、弁護士1名あたりの人口を試算すると実態がより見えてくる。

日本の総人口を約1億2,400万人(2026年推計)とすると、全国平均では弁護士1名あたり約2,556人となる。しかし東京(人口約1,400万人、弁護士24,450名)では約573人に1名と、全国平均の約4.5倍の密度になる。

一方、秋田県(人口約87万人、弁護士77名)では約11,299人に1名。全国平均の約4.4倍の「薄さ」だ。東京と秋田を比較すると弁護士密度はおよそ20倍の差がある計算になる。単純な弁護士数の絶対値比較(240倍)より現実に近い数字ではあるが、それでも格差は際立っている。


データが照射する「次の問い」

分野別データが示すはずのもの

今回参照できるデータのうち、専門分野登録TOP10については詳細が未公開だった。しかしこの分野別データこそが、「どの地域でどの問題が多く扱われているか」を理解するうえで重要な視点をもたらす。

たとえば、弁護士が少ない地域でも相続案件や交通事故案件の需要は一定数存在するはずだ。都市部では企業法務・M&Aなどの案件ウェイトが高いとみられるが、地方では個人向け案件の比率が高くなると考えられる。分野と地域の二軸でデータを組み合わせることで、「過疎地域における個人向け法律サービスの空白」がより精緻に把握できるようになる。

「弁護士が多い=アクセスしやすい」とは限らない

もう一点、この記事全体を通じて強調したい視点がある。弁護士数の多寡と、一般市民が法律相談にアクセスしやすいかどうかは、完全には連動しない。

弁護士数が多い地域でも、費用・手続きの複雑さ・相談先の判断基準の不明確さによって、潜在的な法的ニーズが未解決のまま放置されているケースは少なくないとされている。逆に、弁護士数が少ない地域でも、法テラス(日本司法支援センター)の活用や弁護士会の無料相談制度を通じて、一定のアクセスが担保されている場合もある。

数字が示すのはあくまでも「供給側の分布」であり、実際のアクセスの質と量は別の指標で測る必要がある。


まとめ:データは「問い」を立てるための道具

全国48,541名、東京都24,450名、秋田県77名――。これらの数字を見て「東京は便利で地方は不便」という単純な結論に飛びつくことは、データの読み方として不十分だ。

重要なのは以下の三点だ。

① 偏在は経済・司法インフラ・人口の複合的な帰結であり、単一要因では説明できない

② 依頼者にとっての「アクセス障壁」は物理的距離だけでなく、情報・費用・専門性の面でも存在する

③ 弁護士数の増加は地方の偏在を必ずしも解消していない

弁護士への相談を考えている人にとって、この市場データは「自分が置かれている環境」を客観視するための材料になる。地域や分野によってどのような選択肢があり、費用感はどのくらいかを事前に把握しておくことは、依頼プロセスの第一歩だ。

数字は現実の一側面を切り取ったスナップショットにすぎない。だが、そのスナップショットを丁寧に読むことで、漠然とした「弁護士は身近にいない」という感覚を、解決可能な課題として位置づけ直すことができる。

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