「次の更新はしません」。
半年ごと、あるいは1年ごとの契約を何度も更新して、気づけば同じ職場で5年、10年。仕事内容は正社員とほとんど変わらないのに、契約期間の満了を理由に、ある日突然それを告げられる——。
契約社員やパート、アルバイトとして働く人にとって、これほど理不尽に感じる場面はないかもしれません。「契約だから仕方ない」と言われれば、そう思ってしまいそうになります。
しかし、有期契約だからといって、会社が自由に更新を打ち切れるわけではありません。一定の条件を満たす場合、雇止めは法律上「なかったこと」にできる可能性があります。
「解雇」と「雇止め」は別物。ただし近づくことがある
まず言葉の整理です。
- 解雇: 契約期間の途中、または期間の定めのない契約を、会社側から一方的に打ち切ること
- 雇止め: 有期契約の期間満了時に、会社が更新を拒否すること
解雇には厳しい規制がありますが、雇止めは本来「契約が満了しただけ」なので、原則として会社の自由です。
ところが、労働契約法19条は、一定の場合に雇止めにも解雇に近い規制をかけています。これが「雇止め法理」と呼ばれるルールです。
争える2つの類型
労働契約法19条が保護するのは、次のどちらかにあてはまる場合です。
類型1: 実質的に無期契約と変わらない場合
契約更新の手続きが形だけになっていて、実態として期間の定めのない雇用と変わらない状態です。たとえば——
- 更新のたびに面談や契約書の取り交わしがなく、自動的に続いてきた
- 契約書にサインした記憶が最初の1回しかない
- 更新日を過ぎても何も言われず働き続けていた
類型2: 更新への合理的な期待がある場合
契約が続くと期待することに合理的な理由がある場合です。たとえば——
- 何度も更新が繰り返されてきた
- 「長く働いてほしい」「更新は問題ないよ」といった発言が上司からあった
- 業務内容が臨時的なものではなく、恒常的な仕事を担ってきた
- 同じ立場の同僚は更新され続けている
どちらかにあてはまる場合、雇止めが認められるには客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要になります。つまり、解雇とほぼ同じハードルを会社側が越えなければならないのです。
あなたのケースはどちらに近いか——判断材料
裁判所や労働審判で見られるポイントを、確認しやすい形で挙げます。あてはまるものが多いほど、争える可能性が出てきます。
- 更新回数は何回か(多いほど有利)
- 通算の勤続年数はどれくらいか
- 更新手続きは毎回きちんと行われていたか、形骸化していたか
- 担当業務は臨時的か、会社の基幹的・恒常的な業務か
- 契約書に「更新しない場合がある」「更新は最大○回」などの記載があるか(あると不利に働きうる)
- 上司や人事から継続を期待させる言動があったか
- 過去に同じ立場の人が雇止めされた例があるか
逆に、契約書で更新上限が最初から明示され、その通りに運用されてきた場合などは、争うのが難しくなる傾向があります。有利な事情と不利な事情の両方を冷静に洗い出すことが出発点です。
通算5年の直前に雇止めされた場合
有期契約が通算5年を超えて更新されると、労働者の申込みによって無期契約に転換できるルール(無期転換ルール)があります。
このルールの適用を避ける目的で、通算5年に達する直前に雇止めをする会社があります。こうした雇止めがすべて違法になるわけではありませんが、無期転換逃れという意図が透けて見える事情は、雇止めの合理性を判断するうえで労働者側に有利に働くことがあります。契約年数を正確に数えて、タイミングの不自然さを記録しておきましょう。
最初の一手: 雇止めの理由を文書で求める
雇止めを告げられたら、感情的に抗議する前にやるべきことがあります。
「雇止め理由証明書」の交付を会社に請求することです。
厚生労働省の基準(有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準)により、労働者が請求した場合、会社は雇止めの理由を記載した証明書を遅滞なく交付しなければならないとされています。口頭の説明は後からいくらでも変わりますが、文書に書かれた理由は動きません。会社が後から別の理由を持ち出してきた場合、その不自然さ自体が労働者側の材料になります。
あわせて、次のものを手元に集めておきましょう。
- これまでの契約書・労働条件通知書(全期分)
- 更新時のやりとりがわかるメール・チャット
- 「更新するよ」等の発言があった場面のメモ(日時・場所・発言者)
- 業務内容がわかる資料
争う手段は3段階ある
雇止めを争う方法には、コストと時間の異なる複数のルートがあります。
- 労働局のあっせん: 無料で、労働局が間に入って話し合いを仲介します。ただし会社側に参加義務がなく、拒否されると終わります
- 労働審判: 裁判所の手続きで、原則3回以内の期日で結論が出ます。解決金による金銭解決になることが多い手続きです
- 訴訟: 時間はかかりますが、雇止めの無効(=契約が続いていること)を正面から争えます
どのルートが適しているかは、証拠の強さ、職場に戻りたいのか金銭的な解決でよいのか、生活の余裕によって変わります。この見極めこそ、労働事件の取扱い実績がある弁護士に相談する価値がある部分です。弁護士を検索から地域の弁護士を探せますし、依頼前に口コミ一覧で他の相談者の声を確認しておくのもよいでしょう。
「争わない」選択にも交渉の余地がある
最後に現実的な話を。職場への信頼を失っていて戻る気がない場合でも、黙って去る必要はありません。雇止めの合理性に疑問があるケースでは、会社側も紛争化を避けたいため、退職条件の上乗せ(一定の解決金、有給消化、離職票の離職理由を会社都合とする扱いなど)の交渉が成立することがあります。
「争うか、あきらめるか」の二択ではなく、「どこまで求めて、どこで折り合うか」という発想で、まずは自分のケースの強さを専門家に評価してもらうことをおすすめします。