不動産・住まい

家賃を滞納されたら|大家側が取れる法的手段と禁じ手

弁護士マップ編集部
5分で読める

家賃滞納への対応で、まず知っておくべきは「やれること」ではなく「やってはいけないこと」です。順序が逆に思えるかもしれませんが、理由があります。滞納されている大家は被害者の立場なのに、対応を一つ間違えると、一転して損害賠償を請求される側に回ってしまうからです。

先に禁じ手から:これをやると大家が違法になる

日本の法律では「自力救済の禁止」という大原則があります。権利があっても、裁判所の手続きを経ずに実力で実現してはいけない、というルールです。家賃を何か月滞納されていようと、次の行為は違法と判断されるリスクが高い行為です。

  • 鍵を交換して部屋に入れなくする
  • 借主の留守中に室内へ入る、荷物を運び出す・処分する
  • 玄関ドアに「家賃滞納中」などの張り紙をする
  • 深夜・早朝の訪問や、職場への執拗な取り立て
  • 電気・ガス・水道を止める(止めさせる)
  • 「出て行かないなら子どもの学校に知らせる」といった脅し文句

過去の裁判例では、こうした実力行使をした大家や管理会社側が、不法行為として損害賠償を命じられたケースがあります。滞納額を回収するどころか、支払う側になるのです。感情的には理解できる行動ほど危ない、と覚えておいてください。

正しい対応の全体像:時系列で見る

適法な回収・明渡しは、おおむね次の流れで進みます。

滞納1か月目:早期の連絡と記録

まず電話や手紙で支払いを促します。ここで重要なのは、うっかり忘れなのか、支払い能力の問題なのかを見極めることです。連絡した日時・内容は必ず記録に残します。この段階での丁寧な接触が、後の「信頼関係」の立証でも意味を持ちます。

並行して:保証会社・連帯保証人への連絡

家賃保証会社が入っていれば、契約に沿って代位弁済を請求します。連帯保証人がいる場合は早めに状況を知らせます。なお、2020年施行の改正民法により、個人の連帯保証人については契約書に極度額(保証の上限額)の定めがなければ保証契約自体が無効です。古い契約書を使い回している場合、保証が効かない可能性があるので確認してください。

滞納が続く場合:内容証明郵便での催告

「〇日までに滞納賃料を支払うこと。支払いがない場合は契約を解除する」という催告書を、内容証明郵便(配達証明付き)で送ります。これは後の訴訟で「催告した」ことを証明する重要な布石です。

契約解除:ただし「信頼関係の破壊」が必要

賃貸借契約は、1回の滞納で直ちに解除できるわけではありません。判例上、解除が認められるには貸主と借主の信頼関係が破壊されたといえる事情が必要とされ、実務では滞納3か月程度が一つの目安とよく言われます(ただし事案によります。過去の滞納歴や借主の対応態度も考慮されます)。

明渡請求訴訟から強制執行へ

解除しても借主が退去しない場合、建物明渡請求訴訟を提起します。判決(または和解)を得てもなお退去しなければ、裁判所の執行官による強制執行で明渡しを実現します。ここまで来て初めて、法的に「退去させる」ことができます。

時間とお金の現実:早く動くほど傷は浅い

大家側として知っておくべき厳しい現実は、訴訟から強制執行までにはそれなりの時間と費用がかかることです。訴訟の準備から判決、強制執行の断行まで、数か月単位の期間を見込む必要があり、その間も滞納は積み上がります。弁護士費用、執行費用(荷物の搬出・保管費用など)も発生し、滞納者に資力がなければ回収できないまま終わることもあります。

この構造から導かれる実務的な教訓は一つです。「様子を見る」期間が長いほど損失が膨らむ。滞納が始まったら、月単位で機械的に次のステップへ進む運用を決めておくことが、結果的に借主のためにもなります。

訴訟の前に検討したい現実的な選択肢

法的手段一直線が常に最適とは限りません。次のような着地も選択肢です。

  • 分割払いの合意:一時的な収入減が原因なら、支払計画を書面化して継続してもらうほうが得なことも
  • 合意解約+明渡し猶予:「滞納分の一部免除と引き換えに〇月末までに退去」という合意ができれば、訴訟より早く安く終わります
  • 公的支援の案内:借主が住居確保給付金などの制度を使えれば、家賃が公費から支払われ、結果的に大家も助かります

「回収の最大化」と「空室期間の最小化」を天秤にかけ、トータルで判断する視点が重要です。

弁護士に依頼するタイミングと選び方

自主交渉で解決しない場合、内容証明の作成段階から弁護士に依頼する方法と、訴訟段階から依頼する方法があります。明渡訴訟は定型的な部分も多い一方、占有者が変わっている(無断転貸されている)、借主が行方不明、といった事情があると難易度が上がります。

賃貸管理・建物明渡しの取扱い実績がある弁護士を弁護士を検索で探し、初回相談で「解除が認められる見込み」「総費用と回収可能性」「強制執行までの想定期間」を確認してください。費用の目安は費用相場にまとめています。複数の物件を持つ大家であれば、顧問契約で滞納対応を仕組み化するのも一案です。

まとめ:大家を守るのは「手続きの正しさ」

  • 鍵交換・荷物撤去・張り紙などの自力救済は、大家側が違法になる禁じ手
  • 連絡と記録→保証会社・保証人→内容証明での催告→解除→訴訟→強制執行が正規ルート
  • 解除には信頼関係の破壊が必要。1回の滞納で即解除はできない
  • 個人保証は極度額の定めがないと無効。契約書を確認する
  • 様子見が最大の敵。分割合意や合意解約も含め、早期に方針を決める

滞納対応は、感情を抑えて手続きを粛々と進めた大家が最も損失を小さくできる分野です。怒りを行動力に変える方向を、実力行使ではなく手続きに向けてください。

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