交通事故

死亡事故の遺族が知っておくべきこと|手続きと賠償の全体像

弁護士マップ編集部
8分で読める

家族を交通事故で亡くした直後、遺族には悲しむ時間さえ十分に与えられません。警察からの連絡、遺体の引き取り、葬儀の手配、親族への連絡。そして数週間もしないうちに、加害者側の保険会社から「お話をさせていただきたい」という電話がかかってきます。

頭も心も追いつかない状態で、賠償や刑事処分といった重い判断を迫られる。これが死亡事故の遺族が置かれる現実です。この記事では、「いま何をすべきで、何を急がなくてよいのか」を時系列で整理します。全部を一度に理解する必要はありません。必要な場面で該当する部分だけ読み返せるように書いています。

事故直後〜葬儀まで:この時期に賠償の話を決める必要はない

まず知っておいてほしいのは、事故直後の時期に賠償に関する何かを「決める」必要はない、ということです。

この時期にやるべきことは、次のような事務的な手続きに限られます。

  • 死体検案書(または死亡診断書)の受け取りと死亡届の提出
  • 葬儀の手配(領収書はすべて保管する。葬儀費用は損害賠償の対象になる)
  • 加害者側の情報の確認(氏名、連絡先、加入している自賠責保険・任意保険の会社名と証明書番号)
  • 事故を扱う警察署と担当者の確認

一方、この時期に加害者側の保険会社から示談の話が出ても、応じる義務はまったくありません。「気持ちの整理がつくまでお待ちください」と伝えて構いませんし、実際、四十九日を終えるまで具体的な話をしない遺族は少なくありません。保険会社の担当者も、遺族が落ち着くまで待つのが通常の対応です。

なお、加害者本人やその家族が謝罪に訪れることがあります。受け入れるかどうかは遺族の自由です。ただ、この場面で「賠償はいくらで」といった話をその場で約束するのは避けてください。口頭のやり取りでも、後の交渉に影響することがあります。

賠償金は「4つの損害」の合計でできている

死亡事故の損害賠償は、大きく次の4つで構成されます。

  • 葬儀関係費:葬儀・法要にかかった費用。一定の範囲で認められる
  • 死亡逸失利益:亡くなった方が生きていれば将来得られたはずの収入。年齢、収入、家庭内での役割(主婦・主夫を含む)をもとに計算される
  • 死亡慰謝料:亡くなった本人の精神的苦痛に対する賠償。家庭内での立場(一家の支柱か、配偶者か、子か)によって水準が変わる
  • 近親者固有の慰謝料:民法711条により、被害者の父母・配偶者・子は、本人の慰謝料とは別に自分自身の慰謝料を請求できる

ここで重要なのは、同じ事故でも「どの基準で計算するか」によって金額が変わるという点です。自賠責保険の基準、任意保険会社の社内基準、裁判所の基準(過去の裁判例の蓄積)は、それぞれ水準が異なります。保険会社が最初に提示する金額は、裁判所の基準どおりとは限りません。提示額が妥当かどうかは、遺族だけで判断するのが難しい部分であり、示談書に署名する前に一度弁護士のチェックを受ける意味が大きいのはこのためです。

自賠責保険から支払われる死亡の限度額は3,000万円と法律で定められています。損害の総額がこれを超える部分は、加害者の任意保険(未加入なら加害者本人)に請求することになります。

誰が請求するのか:相続人の確定と遺族間の調整

死亡事故の賠償請求権は、亡くなった方の相続人が相続します。つまり、請求の主体は「遺族」という漠然としたまとまりではなく、法律上の相続人です。

実務では次のような準備が必要になります。

  • 亡くなった方の出生から死亡までの戸籍をそろえ、相続人を確定する
  • 相続人が複数いる場合、交渉の窓口となる代表者を決める
  • 示談の内容(金額、受け入れるかどうか)について相続人間で意見をそろえる

見落とされがちなのが、この「遺族間の調整」です。たとえば、配偶者は早く区切りをつけたい、子は加害者を許せず徹底的に争いたい、というように意見が割れることがあります。前妻との間の子がいる場合や、相続人の中に連絡の取りにくい人がいる場合は、さらに調整が難しくなります。弁護士に依頼する実益は、保険会社との交渉だけでなく、こうした窓口の一本化にもあります。

刑事手続と民事の賠償は別のレール

加害者は、賠償とは別に刑事責任(過失運転致死罪など)を問われます。遺族として知っておきたいのは次の点です。

  • 刑事裁判の結果(起訴・不起訴、量刑)と、民事の賠償金額は別の手続きで決まる
  • 遺族は「被害者参加制度」を使って刑事裁判に参加し、意見を述べたり被告人に質問したりできる場合がある
  • 検察庁に対して、事件の処分結果や記録の閲覧について問い合わせることができる
  • 刑事記録(実況見分調書など)は、後の民事交渉で過失割合を検討する重要な資料になる

「加害者に厳しい処罰を望むか」を検察官から聞かれる場面もあります。示談の成立状況が量刑に影響することがあるため、加害者側から「刑事裁判の前に示談を」と急かされるケースもありますが、遺族側が急ぐ理由はありません。納得できないまま署名しないことが何より大切です。

示談までのおおまかな流れと時効

全体の流れをまとめると、おおよそ次のようになります。

  • 事故発生、警察による捜査(実況見分・実況見分調書の作成)
  • 葬儀、四十九日などの法要
  • 刑事手続(起訴された場合は刑事裁判。被害者参加を検討)
  • 損害額の計算と保険会社との交渉
  • 合意できれば示談書の取り交わし、できなければ調停・訴訟へ

損害賠償請求権には時効があります。生命・身体の侵害による損害賠償は、損害と加害者を知った時から原則5年です。「急いで示談する必要はない」とはいえ、何年も放置してよいわけではない点は頭に置いてください。

当面のお金が苦しいとき:示談前に受け取れるお金がある

示談成立までは通常、数ヶ月から年単位の時間がかかります。その間、一家の収入を支えていた方を亡くした家庭では、生活費が現実的な問題になります。示談を待たずに使える制度を知っておいてください。

  • 自賠責の仮渡金:死亡事故の場合、示談成立前でも自賠責保険に対して当座の資金(仮渡金)を請求できる制度があります。最終的な賠償金から差し引かれる前払いの位置づけです
  • 自賠責への被害者請求:任意保険会社との交渉がまとまらなくても、自賠責部分(死亡は限度額3,000万円)は先行して被害者側から請求できます
  • 遺族年金:国民年金・厚生年金の遺族給付は、賠償とは別の制度として請求できます(賠償金との間で一定の調整はあります)。年金事務所に確認してください
  • 労災の遺族給付:亡くなった方が通勤中・仕事中の事故だった場合は、労災保険の遺族(補償)等給付の対象になり得ます

「示談が終わるまで一円も入らない」わけではありません。生活の不安が交渉を焦らせる最大の要因になるので、先に受け取れるものを確保して、腰を据えて交渉できる状態を作ることが大切です。

手続きに必要になる主な書類

先々で必要になる書類をまとめておきます。早めにそろえ始めると、後の手続きが格段に楽になります。

  • 交通事故証明書(自動車安全運転センターで取得)
  • 死体検案書または死亡診断書の写し
  • 亡くなった方の出生から死亡までの連続した戸籍謄本一式
  • 相続人全員の戸籍謄本・印鑑登録証明書
  • 葬儀関係の領収書一式
  • 亡くなった方の収入資料(源泉徴収票、確定申告書、給与明細など。逸失利益の計算に使う)
  • 刑事記録(実況見分調書など。手続きを経て取得。弁護士に依頼すれば取り寄せを任せられる)

弁護士に相談するなら、いつ・何を聞くか

死亡事故は損害額が大きく、争点(逸失利益の計算、過失割合、慰謝料の水準)も多いため、弁護士が関与する意味が大きい類型です。自動車保険に弁護士費用特約が付いていれば、遺族が使える場合もあります。相談のタイミングとしては、保険会社から具体的な金額提示がある前、できれば刑事手続が動いている段階が一つの目安です。

初回相談で聞いておきたいことの例を挙げます。

  • 提示された(またはこれから提示される)金額は裁判所の基準と比べてどうか
  • 過失割合について争う余地はあるか
  • 被害者参加制度を使う場合のサポートは可能か
  • 費用の総額はどのくらいになりそうか(費用相場も参考になります)

依頼先を探す際は、交通事故、特に死亡事案の取扱い実績を確認してください。弁護士を検索では地域や分野から候補を絞れます。実際に依頼した人の声は口コミ一覧でも確認できます。

最後に一つだけ。遺族の方が「自分がしっかりしなければ」と手続きをすべて抱え込み、心身を壊してしまうことがあります。賠償の交渉は代わりの人間に任せられます。任せられるものは任せて、ご自身とご家族の時間を守ってください。

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