労働

労災申請を会社が協力してくれない|自分で申請する方法

弁護士マップ編集部
5分で読める

最初に、多くの人が知らない事実をお伝えします。

労災の申請に、会社の許可も同意も必要ありません。

「うちは労災を使わない方針だから」「労災にするかどうかは会社が決めること」——仕事中のケガや通勤中の事故のあと、こんな言葉を言われて申請をあきらめかけている人がいたら、それは誤解に基づいています。労災保険の給付を請求する権利は、働いている本人(被災労働者)にあります。会社は手続きに協力する立場であって、申請の可否を決める立場ではありません。

この記事では、会社が協力してくれない場合に自分で労災申請を進める方法を、順を追って説明します。

「会社が労災と認めない」は手続き上、意味がない

労災にあたるかどうか(業務災害・通勤災害の認定)を判断するのは、会社ではなく労働基準監督署です。

会社が「これは労災ではない」と言っても、それは会社の意見にすぎません。逆に会社が「労災だ」と言っても、労基署が認めなければ給付は出ません。認定権限は最初から最後まで労基署にあります。

だから、会社と「労災かどうか」で議論して消耗する必要はないのです。判断してもらう先が別にある、と考えてください。

会社が労災申請を渋る主な理由

会社が非協力的になる背景を知っておくと、対応を考えやすくなります。

  • 保険料への影響を心配している: 一定規模以上の会社では、労災の発生状況に応じて保険料率が増減する仕組み(メリット制)があります
  • 労基署の調査を警戒している: 労災申請をきっかけに、安全管理体制や労働時間の状況を調べられることを避けたい
  • 単なる無知: 「労災を使うと会社が罰せられる」という誤解や、手続きを知らないだけのケースも少なくありません

理由がどれであっても、労働者側の対応は変わりません。会社を通さず、直接労基署に申請すればよいのです。

自分で申請する手順

ステップ1: 請求書の様式を入手する

労災の請求書は、厚生労働省のウェブサイトからダウンロードできるほか、労働基準監督署の窓口でももらえます。主に使うのは次の様式です。

  • 治療費関係: 労災指定病院で治療を受けた場合は「療養補償給付たる療養の給付請求書」(様式第5号)、指定外の病院で自費で払った場合は様式第7号(通勤災害の場合は様式が異なります)
  • 休業補償: 仕事を休んで賃金が出ない場合は「休業補償給付支給請求書」(様式第8号)

どの様式を使うべきかは、労基署に電話で聞けば教えてくれます。

ステップ2: 事業主証明欄が空欄でも提出できる

請求書には会社が記入する「事業主証明欄」があります。ここで多くの人がつまずきますが、会社が証明を拒否した場合、空欄のままでも労基署は受け付けます

その際は、「会社に証明を依頼したが拒否された」という経緯をメモにして添えるとスムーズです。労基署から会社に確認の連絡が入り、必要な調査は労基署が行います。

ステップ3: 労基署に提出し、調査に協力する

提出先は、勤務先の所在地を管轄する労働基準監督署です(自宅の最寄りではない点に注意)。提出後、労基署から事故の状況について聞き取りがあることがあります。事実をそのまま話せば足ります。

健康保険で治療してしまった場合

労災なのに健康保険証を使って治療を受けてしまうケースはよくあります。この場合も手遅れではありません。

  • まず病院に「労災でした」と伝え、労災への切替が可能か確認する
  • 病院での切替ができない場合は、加入している健康保険の保険者に連絡し、健康保険が負担した分(7割相当)をいったん返還する
  • 支払った全額について、労基署に療養の費用を請求する

手間はかかりますが、労災であれば治療費の自己負担は原則ありませんので、切り替える価値は十分あります。

会社が報告すらしないのは「労災かくし」

労働者が仕事中のケガで休業した場合、会社には労基署への報告義務があります(労働者死傷病報告)。これを怠ったり虚偽の報告をしたりする行為は「労災かくし」と呼ばれ、労働安全衛生法違反として処罰の対象になります。

会社が「病院では通勤中に転んだことにしておいて」などと言ってきた場合、それは労災かくしへの加担を求められている状態です。応じる義務はありませんし、応じると後で不利益を受けるのは自分です。

労災保険だけではカバーされないもの

ここまでは労災保険の話でしたが、知っておきたいのは、労災保険の給付だけでは損害のすべてが埋まらないことです。

  • 慰謝料(精神的苦痛への賠償)は労災保険からは出ません
  • 休業補償は賃金の全額ではありません

会社の安全管理に落ち度があってケガをした場合(安全配慮義務違反)、労災保険とは別に、会社に対して損害賠償を請求できる可能性があります。後遺障害が残った場合や、会社の管理体制に明らかな問題があった場合は、労働問題の取扱いが多い弁護士に相談する価値があります。費用の目安は費用相場で確認できます。

相談先の使い分け

  • 労災申請の手続きがわからない → 労働基準監督署(無料。管轄の労基署に電話でOK)
  • 会社が労災かくしをしようとしている → 労働基準監督署への申告
  • 会社への損害賠償も検討したい・後遺障害の等級に納得できない → 弁護士。弁護士を検索から、労災案件の取扱い実績がある弁護士を地域で探せます

労災申請そのものは、会社の協力がなくても自力で完結できます。まずは管轄の労基署への電話から始めてみてください。

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