男女問題

離婚後に子どもを連れて引っ越したい|面会交流と転居の法律問題

弁護士マップ編集部
8分で読める

「引っ越し先を元配偶者に相談しなければいけないの?」という不安

離婚して2年。子どもを引き取って育てているあなたに、実家のある地方への転職の話が舞い込んだ。親のサポートも受けられるし、生活費も下がる。子どもの学校のことを考えれば、決めるなら今しかない。

けれど頭をよぎるのは、元配偶者と取り決めた「月1回の面会交流」のこと。片道3時間の距離になったら、今までどおりの面会は物理的に難しい。「勝手に引っ越したら親権を取り上げられるのでは」「引っ越し自体に相手の同意が必要なのでは」——そんな不安で足が止まっている人は少なくありません。

先に結論の骨格だけ示すと、次のようになります。

  • 単独で親権を持っている場合、転居そのものに元配偶者の同意は法律上不要
  • ただし、面会交流の取り決めがある場合、「取り決めを守れなくなる引っ越し」を無断で強行すると、後々の紛争リスクが大きくなる
  • 引っ越しの自由と、取り決めを誠実に扱う義務は、別の問題として両立させる必要がある

この記事では、この「両立のさせ方」を順番に整理します。

転居そのものを禁止する法律はない

離婚後に単独で親権者になった親には、子どもの住む場所を決める権限が含まれます。どこに住むか、どの学校に通わせるかは、親権者が子どもの利益を考えて決めてよい事項です。元配偶者に転居の「許可」を求める法律上の義務は、原則としてありません。

ただし、ここに2つの例外的な状況があります。

1つめは、離婚協議書や調停調書に転居に関する条項がある場合です。「転居する場合は事前に相手方に通知する」「面会交流に影響する事情が生じたときは協議する」といった条項が入っていることがあり、これに反すると債務不履行の問題が生じ得ます。

2つめは、共同親権を選択している場合です。2024年に民法が改正され、離婚後に父母双方を親権者とする選択が可能になりました。共同親権のもとでは、子どもの生活の本拠を変えるような重要な事項は父母が共同で決めるのが原則とされ、転居はまさにその典型例になり得ます(急迫の事情がある場合などの例外はあります)。共同親権を選んでいる方は、単独親権のケースとは前提が異なるため、動く前に弁護士への相談を検討したほうが安全です。

引っ越しを決める前に開くべき書類——確認ポイント

まず、離婚時に交わした書類(離婚協議書・公正証書・調停調書・審判書のいずれか)を手元に出して、次の点を確認してください。

  • 面会交流の頻度・時間・方法が具体的に書かれているか(「月1回、第2日曜、10時から17時」など)
  • 受け渡しの場所や方法が指定されているか
  • 転居時の通知義務や事前協議の条項があるか
  • 面会の交通費の負担について定めがあるか
  • 「子の福祉に配慮して柔軟に協議する」といった一般条項しかないか

ここで重要な分かれ目は、面会交流の定めが「具体的」かどうかです。日時・頻度・引き渡し方法まで具体的に特定された取り決めは、裁判所の手続を通じて間接強制(守らない場合に金銭の支払いを命じる方法)の対象になり得ることが最高裁の判例で示されています。つまり、具体的な取り決めがあるのに一方的に守れない状態を作ると、法的な圧力を受ける可能性があるということです。逆に「月1回程度、協議のうえ実施する」といった抽象的な定めであれば、間接強制まで進む可能性は下がりますが、紛争にならないという意味ではありません。

面会交流は「回数を減らす」より「形を変える」

遠方への転居で従来どおりの面会が難しくなる場合、単に「回数を減らしてほしい」と切り出すと、相手は「子どもと引き離される」と受け取り、交渉が硬直しがちです。実務でよく使われるのは、面会の総量をなるべく保ちながら形を変える提案です。

  • 毎月の対面をやめる代わりに、夏休み・冬休みに2〜3日のまとまった面会を設定する
  • 対面の間隔が空く分、ビデオ通話でのオンライン面会を週1回などで補う
  • 学校行事(運動会・発表会)への参加を面会の一部として認める
  • 遠距離になる分の交通費負担をどう分けるかをあわせて決める

相手の立場から見ると、「会える総時間」と「子どもの成長を見届けられる機会」が保たれるかどうかが納得の鍵になります。引っ越しの必要性(転職・親の介護・経済的事情など)を説明する資料と、代替案をセットで提示できると、話し合いはかなり進めやすくなります。

合意ができたら、口約束にせず書面にしましょう。もともと調停調書で面会交流を定めていた場合は、あらためて面会交流の調停を申し立てて条件を変更しておくと、後の紛争予防になります。

無断で遠方に引っ越したらどうなるか

「話がこじれるくらいなら黙って引っ越したい」と考える人もいますが、そのリスクは整理して知っておくべきです。

  • 転居自体が違法とされるわけではありません。単独親権者の転居を事後的に取り消す仕組みは基本的にありません
  • ただし、相手は面会交流調停を申し立てることができ、具体的な取り決めがあれば履行勧告や間接強制の手続に進む可能性があります
  • 相手が親権者変更の調停・審判を申し立てるケースもあります。転居だけを理由に親権者変更が認められる可能性は高くないと一般に言われますが、「面会交流を意図的に妨害し続けている」と評価される事情が積み重なると、子どもと相手との関係を尊重できない親だという不利な評価につながり得ます
  • 何より、子ども自身が「親同士の争い」に巻き込まれる期間が長くなります

つまり、無断転居は「即アウト」ではないものの、その後の紛争であなたの誠実さが疑われる材料になり、長期的にはあなたと子どもの負担を増やしやすい選択だ、ということです。

なお、DVやストーカー被害から逃れるための転居はまったく別の話です。この場合は住所を知らせないことが最優先で、住民票の閲覧制限(支援措置)などの制度があります。安全に関わるケースは、自己判断で動く前に、DV事案の取扱い実績がある弁護士や配偶者暴力相談支援センターに相談してください。

海外への引っ越しはさらに慎重に

国外への転居は国内とは次元の違う論点が加わります。日本はハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)の締約国であり、国境を越えた子どもの移動については、相手の同意や監護権の内容によって「子の返還」を求める手続の対象になる可能性があります。相手が外国籍の場合や、相手に監護権・共同親権がある場合は、出国前に必ず国際家事事件の取扱いがある弁護士に確認することを強くおすすめします。

引っ越しまでの現実的な段取り

  • 離婚時の書類を確認し、面会交流・転居に関する条項を洗い出す
  • 引っ越しの必要性を説明できる資料(内定通知、親の介護の状況など)を用意する
  • 面会交流の代替案(長期休暇型・オンライン併用・費用分担)を2〜3パターン作る
  • 引っ越しが確定する前の、できるだけ早い段階で相手に伝える
  • 合意できたら書面化(調停調書があった場合は調停での条件変更を検討)
  • 合意できなければ面会交流調停を申し立て、調停の場で条件を再設定する

「面会させないなら養育費を払わない」と言われたら

転居の話し合いでしばしば飛び出すのが、養育費と面会交流を取引材料にする発言です。ここは法律上の整理をはっきりさせておきましょう。養育費は子どもの生活のための義務、面会交流は子どもと親の交流のための取り決めであり、法的には別の問題です。面会が減ったことを理由に養育費の支払いを一方的に止めることは認められませんし、逆に「養育費を増額するから面会をなくす」という取引も、子どもの利益の観点から適切とは言えません。

とはいえ現実の交渉では、この2つが感情的に絡み合います。相手が支払い停止をほのめかしてきた場合は、口頭で言い争わず、調停調書や公正証書があるなら強制執行の可能性も含めて対応できることを念頭に、冷静に記録(メッセージのやり取り等)を残しておくことが大切です。

弁護士に相談するときに聞くべきこと

相談時間を有効に使うために、質問を用意しておくと効率的です。

  • 今の取り決め内容だと、転居によってどんな法的リスクがあるか
  • 相手に伝えるタイミングと伝え方はどうすべきか
  • 提案しようとしている代替案(長期休暇型・オンライン併用)は妥当か
  • 相手が面会交流調停や親権者変更を申し立ててきた場合の見通し
  • 依頼した場合の費用と、調停になった場合の追加費用

調停は家庭裁判所の手続ですが、弁護士を付けずに本人だけで申し立てることも可能です。一方で、相手との対立が激しい、過去に取り決め違反を主張されている、共同親権を選択しているといった事情があるなら、離婚後の親子関係の事件を多く扱う弁護士に一度相談する価値があります。お住まいの地域から弁護士を検索でき、相談料や依頼した場合の費用感は費用相場で確認できます。

引っ越しは、あなたと子どもの生活を立て直すための前向きな選択のはずです。法律上の自由を確認しつつ、取り決めには誠実に向き合う——この2つを両立させることが、結果的に一番の近道になります。

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