高齢者・家族

親の介護費用で兄弟が揉めたら|寄与分と扶養義務の考え方

弁護士マップ編集部
7分で読める

「近くに住んでいるんだから、お前が親の面倒を見るのが当然だろう」

「私ばかり時間もお金も使っている。あなたも毎月いくらか出してよ」

「親の年金で足りてるはずだ。足りないなんて、使い込んでるんじゃないのか」

親の介護が始まると、それまで良好だった兄弟姉妹の関係に、こうした会話が入り込んできます。介護費用をめぐる兄弟間の対立は、感情のもつれと法律の誤解が絡み合って長期化しやすく、親が亡くなった後の相続争いに直結する典型パターンでもあります。

やっかいなのは、この問題について多くの人が抱いているイメージと、法律の実際の姿にズレがあることです。まず、そのズレから見ていきます。

よくある2つの誤解

誤解1「介護した分は、相続のときに当然多くもらえる」

献身的に介護した子が相続で報われる制度として「寄与分」がありますが、実務でのハードルは想像以上に高いのが実情です。理由は後述しますが、「同居して身の回りの世話をしていた」程度では認められないことが珍しくありません。「あとで相続のときに調整すればいい」という見通しで介護の負担を一人で抱え込むのは、危険な賭けになりえます。

誤解2「兄弟は全員、平等に介護費用を負担する義務がある」

民法上、子は親に対して扶養義務を負います。ただしこの義務は「自分と同じ生活水準を保障する」ような重いものではなく、自分の生活を犠牲にしない範囲で、余力に応じて援助するという性質のものと理解されています。つまり、収入や家庭の事情が違う兄弟が機械的に同額を負担すべき、という話にはなりません。年収の高い兄と、自身の家計が苦しい妹とでは、法律的にも求められる負担は変わりうるのです。

大原則:介護費用は「まず親のお金」から

兄弟間の負担割合を議論する前に、順序として確認すべきことがあります。親の介護費用は、第一に親自身の年金・預貯金・資産から支出するのが原則だということです。

子の扶養義務が問題になるのは、親の資力では足りない場合です。ここを飛ばして「子どもたちでいくらずつ出すか」から話を始めると、後になって「親の預金があったのに自分たちが払わされた」「逆に親の預金を勝手に使った」という新たな火種を生みます。

そのためにも、次の整理を先にやっておくことが、あらゆる対立の予防になります。

  • 親の収入(年金額)と資産(預貯金・不動産・保険)の一覧化
  • 介護にかかる月々の費用の見える化(施設費・医療費・日用品・交通費)
  • 親のお金の管理者を決め、通帳と領収書を保管し、求められたら他の兄弟にいつでも開示する

とくに3つ目は重要です。介護を担う子が親の口座を管理すること自体は自然ですが、記録がないと「使い込みでは」という疑いを招き、疑われた側も潔白を証明できません。家計簿アプリでもノートでも、形式は問いません。

それでも足りないとき:扶養請求という手続き

親の資力で足りず、兄弟間の話し合いもまとまらない場合、法律上は家庭裁判所に「扶養」に関する調停を申し立てる方法があります。親自身が子らに扶養料を求める形や、立て替えている子が他の兄弟に過去の立替分の分担を求める形(求償)が考えられます。

調停では、各自の収入・資産・家庭の事情をふまえて負担のあり方が話し合われます。もっとも、兄弟を家裁に呼び出すことは関係の決定的な悪化を招きやすく、実際には最後の手段です。その手前で、弁護士に代理交渉を依頼して書面で分担合意を作る、という中間的な選択肢もあります。

寄与分の現実:なぜ「介護=上乗せ」にならないのか

親が亡くなった後、介護を担った相続人は遺産分割の中で寄与分を主張できます。ただし、認められるには「特別の寄与」、つまり親子として通常期待される範囲を超える貢献が必要とされます。実務上、次のような要素が問われます。

  • 特別性:同居や日常的な世話を超えて、本来ならヘルパーや施設に頼むべき介護を担っていたか(親の要介護度が重要な手がかりになります)
  • 無償性:介護の対価(給料や生活費の全面負担)を受け取っていなかったか
  • 継続性・専従性:片手間ではなく、相当の期間、相当の負担で従事したか
  • 財産の維持との因果関係:その介護によって、親の財産の支出(施設費など)が現に免れたといえるか

そして主張には裏付けが要ります。介護日誌、要介護認定の資料、ケアマネジャーの記録、支出の領収書。これらがあるかないかで、話し合いの説得力がまるで違います。介護をしている今のうちから記録を残すことは、寄与分の観点でも意味があるのです。

「長男の嫁」が介護していた場合:特別寄与料

相続人でない親族――典型的には子の配偶者――が無償で介護に尽くした場合に、相続人に対して金銭(特別寄与料)を請求できる制度が民法に設けられています。かつて「嫁がいくら介護しても法的には無権利」だった状態を改める制度です。

ただし、この請求には期間の制限があり、相続の開始と相続人を知ってから比較的短い期間(6か月)で行使する必要があるなど、使い方に注意点があります。該当しそうな立場の方は、相続が起きたら早めに弁護士へ相談することをおすすめします。

兄弟間の合意は「書面」にしておく

話し合いで負担割合が決まったら、口約束で終わらせず、簡単でよいので書面にしておくことを強くおすすめします。盛り込む項目は次のとおりです。

  • 誰が・毎月いくらを・どの口座に払うか(親の介護専用口座を作ると管理が楽になります)
  • 費用が増えた場合(施設入所・入院など)の再協議のルール
  • 介護を担う人の交通費・立替金の精算方法
  • 親のお金の管理者と、収支報告の頻度(たとえば半年に1回、通帳のコピーを共有するなど)

「家族間で書面なんて水くさい」と感じるかもしれませんが、実際には逆です。ルールが文字になっているほうが、疑心暗鬼が生まれにくく、関係は長持ちします。数年後に誰かの経済状況が変わったときも、「あの合意を見直そう」と話を切り出しやすくなります。

弁護士に相談する場合は、次のような聞き方をすると具体的な助言を引き出せます。

  • 親の資産がこの額の場合、兄弟に分担を求められるのは月いくら程度が現実的ですか
  • これまで立て替えてきた分を、さかのぼって請求できますか
  • 介護の記録として、今から何を残しておけば将来の寄与分の主張に役立ちますか
  • 兄弟に直接連絡を取りたくないのですが、交渉をすべて任せた場合の費用はいくらですか

揉める前・揉めたときの相談先マップ

  • 介護そのものの負担を軽くしたい:まず地域包括支援センターとケアマネジャーへ。介護保険サービスを増やして「家族が担う量」自体を減らすことが、実は兄弟対立の最も効く処方箋です
  • 兄弟間の話し合いを整えたい:親の資産一覧と費用の見える化を先に。可能なら親が元気なうちに、費用負担と介護方針についての家族会議を開き、簡単でも書面に残す
  • 話し合いが決裂した・使い込みを疑っている/疑われている:弁護士への相談段階です。扶養料の分担交渉、調停の代理、預金の調査などを任せられます。弁護士を検索から相続・親族間紛争の取扱いがある事務所を探せます。費用の目安は費用相場を参考にしてください
  • 将来の相続まで見据えたい:親に遺言書を用意してもらう、介護の貢献を遺言の中で反映してもらう、といった予防策は、対立が浅いうちほど実現しやすくなります

この問題の本質は「先送り」

介護費用の兄弟間トラブルを突き詰めると、原因の多くは金額そのものではなく、「誰がどれだけ負担しているかが共有されないまま時間が過ぎた」ことにあります。負担している側の不満は静かに積もり、していない側は事態の深刻さを知らない。この情報格差が数年分たまった状態で相続が発生し、一気に爆発するのです。

だからこそ、対策はシンプルです。記録し、開示し、早めに話す。それでも合意できないときに初めて、法律と第三者の出番になります。順番を間違えなければ、多くの家族は裁判所まで行かずに着地できます。

そして、もし今あなたが「負担している側」なら、一人で抱え込む前に、今月の収支メモを1枚作って兄弟に送ることから始めてみてください。それは請求書ではなく、現状を知ってもらうための共有です。多くの対立は、相手が事実を知らないことから始まっています。

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