高齢者・家族

認知症の親の預金が下ろせない|口座凍結の前後にできること

弁護士マップ編集部
6分で読める

「口座凍結」と聞くと、亡くなったときに銀行が口座を止めることを思い浮かべる方が多いと思います。しかし実際には、もうひとつの凍結があります。本人が認知症になり、銀行が「ご本人の意思確認ができない」と判断したときの取引制限です。

死亡時の凍結と違って、こちらは明確な開始の合図がありません。窓口で親がちぐはぐな受け答えをした、電話での本人確認に答えられなかった——そうしたきっかけで、ある日突然、定期預金の解約や大きな金額の払い出しに応じてもらえなくなります。親の年金や預金で介護費用をまかなうつもりだった家族にとって、これは生活設計を揺るがす問題です。

この記事は「凍結される前」と「凍結された後」の2部構成で、それぞれの時点で取れる手を整理します。

第1部:まだ親に判断能力があるうちにできること

打てる手の数は、親の判断能力があるうちが圧倒的に多いです。以下は、いずれも本人が内容を理解できることが前提になります。

1. 銀行の代理人手続きを確認する

多くの金融機関には、代理人カードの発行や、事前に代理人を届け出ておく制度があります。内容は銀行ごとに異なるため、親が口座を持つ銀行に「本人が窓口に来られなくなった場合に備える手続きはあるか」を問い合わせてみてください。ただし、代理人制度があっても、本人の判断能力が失われた後まで使い続けられるかは銀行の取扱いによります。

2. 生活費の流れを整える

介護施設の利用料や公共料金を親の口座からの自動引き落としにしておくと、窓口での払い出しに頼らずに済む部分が増えます。年金の受取口座と支払いの口座をまとめておくのも有効です。

3. 任意後見契約を検討する

本人が「将来この人に任せたい」という人を選んで結んでおく契約です。公正証書で作成し、実際に判断能力が低下した段階で家庭裁判所に任意後見監督人を選んでもらうと効力が動き出します。自分で選んだ人に任せられる点が、裁判所が選ぶ法定後見との大きな違いです。

4. 家族信託を検討する

金銭や不動産の管理権限を、元気なうちに家族へ移しておく契約です。まとまった財産があり、認知症後も柔軟に財産を動かす必要が見込まれる場合の選択肢になります。詳しくは家族信託の記事に譲りますが、これも判断能力があるうちにしか組めません。

5. 軽度のうちなら日常生活自立支援事業も

社会福祉協議会が行っている事業で、判断能力に不安がある方の日常的なお金の出し入れや通帳の預かりを支援してくれます。契約内容を理解できる程度の判断能力が残っていることが利用の条件で、地域の社会福祉協議会が窓口です。

第2部:すでに口座が動かせなくなった後の選択肢

すでに銀行が払い出しに応じてくれない段階では、選択肢は絞られます。

1. 銀行に事情を相談する

全国銀行協会は、認知判断能力が低下した顧客への対応についての考え方を公表しており、本人の医療費や介護費用など本人の利益のための支払いであることが確認できる場合に、親族からの払い出しに柔軟に対応する余地を示しています。請求書や施設の契約書など、使いみちが本人のためであることを示す資料を持って、銀行の窓口に相談してみる価値はあります。ただし、対応は各銀行の判断であり、応じてもらえるとは限りません。

2. 成年後見制度(法定後見)の申立て

確実に口座を動かせるようにする正攻法は、家庭裁判所に後見等の開始を申し立て、選任された後見人が本人に代わって取引をする方法です。開始までに数ヶ月単位の時間がかかること、家族ではなく専門職が後見人に選ばれる場合があること、一度始めると原則やめられないことは、あらかじめ理解しておく必要があります。

3. 立て替えと記録

後見の準備中など、どうしても間に合わない期間は、家族が立て替えざるを得ない場面もあります。立て替えた場合は、領収書と支払いの記録を必ず残してください。後で本人の財産から清算するとき、また相続の場面で他の兄弟に説明するときに、記録の有無が決定的な意味を持ちます。

やってはいけないこと

親のためを思った行動でも、後で深刻なトラブルの種になるものがあります。

  • キャッシュカードで暗証番号を使って引き出し続ける:本人の意思確認を経ない引き出しは、後になって他の相続人から「使い込みではないか」と追及される典型的なパターンです。実際、相続争いの多くはこの時期の出金をめぐって起きます
  • 本人の財産と家族の財産を混ぜる:親の預金を一度自分の口座に移して管理するのは、たとえ誠実に管理していても、外形上は使い込みと区別がつきません
  • 本人に代わって書類にサインする:判断能力のない本人名義の契約や解約手続きを家族が代筆することは、後で効力を争われる原因になります
  • 「今のうちに」と駆け込みで贈与を受ける:判断能力が怪しくなってからの贈与は、無効の主張や特別受益の争いを招きます

判断の分かれ目——どの手段を選ぶか

  • 親の判断能力がまだある → 代理人手続き+任意後見や家族信託の検討。時間との勝負です
  • 判断能力は低下したが、支払いは自動引き落とし中心で回っている → 急いで後見を始めず、生活を回しながら様子を見る選択もあります
  • 定期の解約、不動産の売却、施設入所の一時金など、まとまったお金を動かす必要がある → 法定後見の申立てが現実的な選択肢になります
  • 兄弟間にすでに不信感がある → 早めに弁護士に相談し、お金の管理の透明性を確保する枠組みを作ることをおすすめします

相談先について

制度の入口の相談は、地域包括支援センターや社会福祉協議会が無料で応じてくれます。後見申立ての書類作成は司法書士も扱っています。一方、兄弟間で預金の管理をめぐる対立がすでにある場合や、過去の出金の説明を求められている場合は、交渉や裁判の代理ができる弁護士の領域です。高齢者の財産管理や相続の取扱いが多い弁護士は弁護士を検索で探せます。相談前に費用相場で費用感を掴んでおくと、話がスムーズです。

親の口座の問題は、「まだ大丈夫」と思っているうちが一番の対策時です。この記事の第1部の選択肢が使えるうちに、家族で一度話し合ってみてください。

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