中小企業・個人事業

ネットショップ運営の法律リスク|特商法・景表法の基本

弁護士マップ編集部
7分で読める

ネットショップの開業には、飲食店のような営業許可が原則いりません。BASEやShopify、メルカリShopsなどを使えば、思い立ったその日に店を開けます。ところが、この「開業のハードルの低さ」と「適用される法律の多さ」のギャップこそが、ネットショップ運営者が最初につまずくポイントです。

特定商取引法(特商法)や景品表示法(景表法)は、事業規模を問わず適用されます。「副業レベルだから」「月商数万円だから」という理由で対象外になることはありません。実際、消費者庁や都道府県による行政処分・行政指導は、大手企業だけでなく小規模事業者にも行われています。しかも違反の多くは、悪意ではなく「知らなかった」ことが原因です。

この記事では、ネットショップ運営者が最低限押さえるべき法律を、違反が起きやすい順に整理します。

特商法:まず「表示」でつまずく

特商法は通信販売のルールを定めた法律で、ネットショップは基本的にすべて「通信販売」に該当します。運営者が最初に直面するのが、事業者情報の表示義務です。

「特定商取引法に基づく表記」に何を書くか

通信販売の広告(=ショップページ)には、事業者の氏名(名称)、住所、電話番号、代金や送料、支払時期・方法、引渡時期、返品に関する事項などを表示する義務があります。ここで個人運営者が悩むのが「自宅住所を公開したくない」問題です。

現在は、一定の条件を満たすプラットフォームを利用する場合に、プラットフォーム事業者の住所・電話番号を表示することで代替できる運用が認められています(いわゆる非公開設定)。ただし、利用するサービスがこの運用に対応しているかは個別に確認が必要で、「書かなくていい」わけではなく「代替表示が認められる場合がある」という整理です。自社サイトで独自に運営する場合は、原則どおりの表示が求められます。

通販にクーリングオフはない、その代わりの返品ルール

意外と知られていませんが、通信販売にはクーリングオフ制度がありません。その代わり、返品特約(返品の可否・条件)を広告に表示していない場合、消費者は商品を受け取った日から8日以内であれば返品できる、というルールがあります(送料は消費者負担)。

つまり「返品について何も書かない」のは、「8日間の返品を受け付ける」と宣言しているのとほぼ同じです。「不良品以外は返品不可」としたいなら、その旨を明確に表示しておく必要があります。

定期購入の「最終確認画面」規制

「初回500円」で集客し、実は数回の継続が条件だった――こうした定期購入トラブルの多発を受け、法改正により、注文の最終確認画面で分量・総額・解約条件などを明確に表示することが義務付けられました。違反すると行政処分の対象になるだけでなく、消費者側から申込みの取消しを主張される可能性もあります。定期販売やサブスク型を採用するなら、最終確認画面の表示は必ず確認しておきたいポイントです。

景表法:広告の「盛りすぎ」を規制する法律

景表法は、商品の広告表示が実際より著しく良く見える表示を禁止しています。ネットショップで問題になりやすいのは次の3パターンです。

  • 優良誤認表示:品質・性能を実際より良く見せる表示。「最高級」「業界No.1」など、根拠資料なしに書くのは危険です。効果効能をうたう表示は、合理的な根拠の提出を求められ、出せなければ違反と扱われる仕組み(不実証広告規制)があります
  • 有利誤認表示:価格や取引条件を実際より有利に見せる表示。典型が二重価格表示で、「通常価格10,000円→今だけ5,000円」の「通常価格」に実売の実績がない場合、違反となるおそれがあります
  • ステルスマーケティング:事業者が第三者を装って行う宣伝は、告示により景表法の規制対象です。インフルエンサーに報酬を払ってPRを依頼する場合、「PR」「広告」であることが分かる表示をさせる責任は、広告主である事業者側にあります

「セール前に一瞬だけ定価で売って、すぐセール価格に戻す」といった手法は、二重価格表示の問題として指摘されやすい典型例です。過去の販売実績を説明できる状態にしておくことが、実務上の防御になります。

商品ジャンルによって上乗せされる法律

扱う商材によっては、さらに別の法律が関わります。

  • 健康食品・化粧品・雑貨:医薬品ではないのに「治る」「効く」といった効能をうたうと、薬機法違反となるおそれがあります。化粧品は表現できる効能の範囲が定められています
  • 中古品:仕入れて販売する場合は古物商許可が必要です。自分の不用品を売るのとは扱いが異なります
  • 食品:食品衛生法上の許可・届出や、食品表示法に基づくラベル表示が関わります
  • 酒類:通信販売には通信販売酒類小売業免許が必要です

「モールが審査してくれたから大丈夫」とは限りません。出店審査は法令適合をすべて保証するものではなく、責任を負うのはあくまで販売者本人です。

メール・LINE配信にもルールがある

購入者への広告メールは、特定電子メール法・特商法により、原則として事前の同意(オプトイン)が必要です。配信停止の方法の表示も義務付けられています。購入時に「メールマガジンを受け取る」のチェックボックスを設ける実装が広く行われているのは、この規制への対応です。

また、購入者の氏名・住所などを扱う以上、個人情報保護法の適用も受けます。取得目的の明示、プライバシーポリシーの整備、漏えい時の対応(一定の場合は個人情報保護委員会への報告義務)まで含めて、扱いを決めておく必要があります。

レビュー・口コミの扱いにも法律が絡む

ショップの評価を上げたい気持ちから手を出しがちなのが、レビューの操作です。しかしここにも規制があります。

  • 自作自演のレビュー:運営者やその関係者が一般客を装って高評価レビューを書く行為は、ステルスマーケティングとして景表法の問題になり得ます
  • レビュー投稿の対価に特典を渡す場合:「レビューを書いたらクーポン進呈」自体が直ちに違法とは限りませんが、「高評価を条件に特典」とする運用は、表示の信頼性を歪めるものとして問題視されやすい領域です。モールの規約で明確に禁止されていることも多く、アカウント停止のリスクもあります
  • 低評価レビューの削除要求:事実に反する誹謗中傷であれば削除請求や発信者情報の開示請求という法的手段がありますが、単に「気に入らない感想」を消すことはできません。事実無根の低評価が売上に響いている場合は、ネット上の権利侵害の取扱いがある弁護士に相談する場面です

開店前チェックリスト

最後に、開店前(または今すぐ)確認したい項目をまとめます。

  • 特商法に基づく表記に必要事項がすべてあるか(住所非公開の場合、利用サービスが代替表示に対応しているか)
  • 返品特約を明示しているか(無記載=8日間返品可になっていないか)
  • 定期販売の場合、最終確認画面で総額・回数・解約条件が明確か
  • 「No.1」「最安」「通常価格」などの表示に根拠資料があるか
  • インフルエンサー施策にPR表示のルールを設けているか
  • 商材に応じた許可・免許(古物商、酒類、食品など)を確認したか
  • プライバシーポリシーと広告メールの同意取得の仕組みがあるか

自力で足りる部分と、相談したほうがよい場面

表記の整備やチェックリストの確認は、消費者庁のガイドラインを読みながら自力で対応できる部分も多くあります。許認可については行政書士が窓口になることも一般的です。

一方で、広告表現の適法性判断(この訴求は優良誤認にあたるか)、消費者からの返金要求やクレームが法的請求に発展した場合、行政から報告徴収や立入検査の連絡が来た場合は、判断を誤ると影響が大きいため、消費者法や広告規制の取扱いが多い弁護士に相談する価値があります。行政対応は初動で結果が大きく変わる分野です。

顧問契約を結ぶほどではなくても、新しい広告キャンペーンの前にスポットで表現チェックを依頼する、という使い方をしている事業者もいます。費用感は事務所により異なるため、費用相場を目安にしつつ、弁護士を検索して消費者法分野の取扱いがある事務所をいくつか比較してみてください。

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