籍は入れていないけれど、10年同じ家で暮らし、家計も一つ、お互いの親戚too行き来がある――そんなパートナーから突然「別れたい」と告げられたとき、「結婚していないのだから、何も請求できない」と思っていませんか。
結論から言うと、それは違います。日本の裁判所は古くから、内縁(事実婚)を「婚姻に準ずる関係」として保護してきました。内縁の解消では、法律婚の離婚とかなり近い請求ができます。 ただし、決定的にできないことも存在します。その線引きを正確に知ることが、この記事のゴールです。
入口の問題:あなたの関係は「内縁」と認められるか
すべての同棲カップルが内縁になるわけではありません。内縁と認められるには、おおむね次の2つが必要とされます。
- 婚姻意思:お互いに「夫婦としてやっていく」という意思があったこと
- 夫婦共同生活の実体:同居し、家計を共にするなど、夫婦同然の生活実態があったこと
単に長く付き合っている、半同棲している、というだけでは足りません。逆に、期間が数年程度でも実体がしっかりあれば認められる余地があります。
内縁の証明に役立つ資料
- 住民票の続柄が「妻(未届)」「夫(未届)」になっている(最も分かりやすい公的資料です)
- 一方が他方の健康保険の被扶養者になっている
- 結婚式や披露宴を挙げた、婚約・結婚指輪がある
- 賃貸契約や生命保険の受取人にパートナーとして記載されている
- 家計が同一であることを示す通帳・家賃や生活費の負担記録
- 年賀状や親族の冠婚葬祭に夫婦として出席した記録
これから事実婚を続ける方は、住民票の続柄を「妻(未届)」等にしておくだけで、将来の証明が格段に楽になります。
解消時に請求できるもの
財産分与
内縁解消のいちばんの柱です。判例上、離婚の財産分与の規定は内縁解消にも類推適用されると考えられており、内縁期間中に二人で築いた財産は、名義がどちらであっても清算の対象になります。預貯金、二人で買った家や車、片方名義でも実質共有の資産などです。考え方は法律婚の財産分与とほぼ同じで、貢献度に応じて(原則は2分の1を基準に)分けます。
なお、内縁関係が一方の死亡で終了した場合には財産分与は使えない、というのが最高裁の立場です。「生きて別れれば分与あり、死別なら相続もなし」という落差が内縁の急所です(後述)。
不当な破棄に対する慰謝料
正当な理由なく一方的に内縁を破棄された場合、慰謝料を請求できる可能性があります。たとえば、他に交際相手を作って出て行った、長年連れ添った相手を理由なく追い出した、といったケースです。また、内縁中にパートナーが不貞行為をした場合、法律婚と同様に、不貞の相手方への慰謝料請求も問題になりえます。
婚姻費用の分担・子どもに関する請求
内縁関係が続いている間の生活費(婚姻費用に相当するもの)の分担も、法律婚に準じて請求しうると考えられています。子どもについては、父が認知していれば養育費を請求できます。認知がまだなら、まず認知(任意認知または認知調停・裁判)が先です。内縁の子の親権は母が持ち、認知しても父に自動的に親権が移るわけではありません。
各種の社会保障
意外に知られていませんが、遺族厚生年金や労災の遺族補償などの社会保障の多くは、要件を満たす事実婚の配偶者を「配偶者」に含めています。また、事実婚で第3号被保険者と認定されていた期間があれば、関係解消時に年金の3号分割の対象になりうる扱いもあります。
請求できないもの――内縁の限界
- 相続権:これが最大の違いです。内縁の配偶者には相続権が一切ありません。何十年連れ添っても、パートナーが遺言なしに亡くなれば、財産はパートナーの親や兄弟など法定相続人に行きます
- 配偶者控除などの税法上の優遇:税法は原則として法律婚の配偶者のみを対象とします
- 姻族関係・氏の変更など戸籍上の効果
死別リスクへの備えは、内縁カップルにとって解消時以上に重要な論点です。対策としては、(1)お互いに遺言を書く(遺贈)、(2)生命保険の受取人指定(保険会社により事実婚パートナーを指定できる商品があります)、(3)不動産を共有名義にしておく、などが現実的です。
解消の進め方
内縁の解消自体は、届出が不要なぶん形式は簡単です。しかし金銭の清算はそうはいきません。
- 内縁関係の証拠と財産資料(双方名義の預金・不動産・保険)を確保する
- 財産分与・慰謝料の希望額を整理して話し合う
- 合意できたら清算条項を含む合意書(できれば公正証書)を作る
- 合意できなければ、家庭裁判所に内縁関係調整調停を申し立てる。財産分与や慰謝料をこの調停の中で話し合えます
相手が「内縁ではなくただの同棲だった」と主張してくる場合、争点は関係の性質そのものに及び、証拠の組み立てが結果を大きく左右します。この段階まで来たら、男女問題の取扱い実績がある弁護士への相談を検討してください。弁護士を検索で地域から探せるほか、依頼前に口コミ一覧や費用相場で比較・確認しておくと安心です。
「籍を入れていないから弱い」のではなく、「証明の一手間が増える」のが内縁です。関係が良好なうちに証明の種をまいておくこと、解消のときは法律婚に準じた権利を遠慮なく主張すること。この2つを覚えておいてください。