この記事は、立場の異なる二人の読者を想定しています。
一人は、「月1回会わせる約束だったのに、もう半年会わせてもらえていない」離れて暮らす親。もう一人は、「約束はしたけれど、子どもが嫌がっている。それでも会わせなければいけないのか」と悩む同居親。
面会交流のトラブルは、どちらか一方だけが悪いという単純な構図になることがむしろ少なく、両方の立場の言い分に法律がどう答えているかを知ることが、解決の出発点になります。
前提:面会交流は「親の権利」であると同時に「子どものため」の制度
面会交流は、離れて暮らす親と子どもが会ったり連絡を取り合ったりすることで、民法にも明記された制度です。ただし裁判所の運用では一貫して、「子どもの利益を最も優先して考慮する」ことが基準とされています。
ここから、実務上の大原則が導かれます。
- 同居親の「元配偶者が憎いから会わせたくない」という感情は、拒否の理由になりません
- 一方で、子どもの安全や福祉に具体的な問題があるなら、面会の制限・停止が認められることがあります
つまり「会わせない側が常に悪い」わけでも「決めた以上どんな場合も会わせるべき」わけでもありません。
会わせてもらえない側:取れる手段を段階順に
1. まずは記録を残しながら求める
「○月○日に面会を求めたが、○○という理由で断られた」という記録を、メールやLINEなど後から見返せる形で積み重ねてください。後の調停や強制手続きで、この記録の有無が効いてきます。感情的な非難のメッセージは逆効果なので、事務的に、日時の提案という形で送るのがコツです。
2. 履行勧告(調停・審判で決めていた場合)
家庭裁判所が相手に約束の履行を促してくれる制度で、無料で利用できます。強制力はありませんが、「裁判所が関与している」というシグナルになります。
3. 面会交流調停の(再)申立て
取り決めが口約束や協議書レベルの場合、あるいは状況が変わって条件を見直すべき場合は、家庭裁判所に面会交流調停を申し立てます。調停では家庭裁判所調査官が子どもの意向や生活状況を調査することがあり、感情論ではなく客観的な材料で話し合いが進みます。試行的面会交流(裁判所の部屋で調査官立ち会いのもと試しに会う)が実施されることもあります。
4. 間接強制
調停や審判で決めたのに相手が守らない場合、間接強制――「面会させない場合、1回につき金○円を支払え」と裁判所が命じる手続き――が使える可能性があります。ただし、これが認められるには重要な条件があります。取り決めの内容が、
- 面会の頻度(月1回など)
- 各回の面会時間の長さ
- 子どもの引渡しの方法
などについて具体的に特定されている必要があるのです。「月1回程度、子の福祉に配慮して面会する」といった抽象的な条項では、間接強制は認められないのが判例の立場です。これから調停条項を作る人は、将来の不履行に備えて具体的に定めておくことが重要です。
5. 慰謝料請求
正当な理由なく長期間面会を拒み続けた場合、不法行為として慰謝料が認められた裁判例もあります。ただしハードルは低くなく、最終手段と考えるべきです。なお、「会わせないなら養育費を払わない」という対抗は法的には通りません。養育費と面会交流は法律上、交換条件の関係にないためです。
会わせたくない側:拒否が正当とされうるケース、されないケース
制限・拒否が認められる方向に働く事情
- 子ども自身への暴力・虐待のおそれがある
- 面会時に子どもを連れ去る具体的なおそれがある
- 相手が子どもの前で同居親を激しく非難するなど、子どもの心理に有害な言動を繰り返す
- 子ども自身が明確に拒否している(年齢が上がるほど意思は尊重されます。ただし同居親の影響でないかは調査官が慎重に見ます)
認められにくい事情
- 再婚したので新しい家庭に集中したい
- 養育費が未払いだから(心情は理解できますが、法的には別問題として扱われます)
- 元配偶者と顔を合わせたくない(受け渡し方法の工夫で解決すべき問題とされます)
「会わせたくない」のではなく「会わせ方に不安がある」場合は、条件変更の調停を自分から申し立てるのが正攻法です。黙って拒否を続けると、間接強制や慰謝料のリスクを自分で育てることになります。
第三者機関という選択肢
父母が直接顔を合わせずに面会交流を実施するための民間の面会交流支援団体があります。受け渡しの仲介だけを頼む型、面会全体に付き添ってもらう型などがあり、DVや高葛藤のケースで調停条項に「第三者機関を利用する」と定める例も増えています。利用料は団体によって異なります。自治体が支援事業を行っている地域もあるので、役所の窓口で確認してみてください。
弁護士に相談するタイミング
面会交流は、当事者同士の話し合いがこじれるほど子どもへの悪影響が大きくなる分野です。次の状態なら、離婚・親子問題の取扱いが多い弁護士に相談する価値があります。
- 半年以上、実質的に面会がゼロになっている
- 相手がDV・虐待を主張していて、事実と異なる
- これから調停条項を作る(間接強制を見据えた条項設計は文言の精度が結果を左右します)
地域から弁護士を検索でき、相談前に費用相場で費用感を把握しておくとスムーズです。
子どもにとって、父母の争いが長引くこと自体が最大の不利益だとよく言われます。「勝ち負け」ではなく「続けられる面会の形」を探す視点を、どちらの立場の方も忘れないでください。