休職について、意外に知られていない事実から始めます。
「休職」は、労働基準法に定められた制度ではありません。
有給休暇や産前産後休業と違って、休職を認めるかどうか、期間を何か月にするか、その間の給料をどうするかは、すべて各社の就業規則しだいです。だから会社によって中身がまったく違いますし、就業規則に休職制度がない会社では、そもそも「休職」自体が存在しないこともあります。
この「会社ごとの制度」という性質が、休職・復職トラブルのほぼすべての出発点になっています。うつ病などのメンタル不調で休んでいる人、これから休職する人、復職を申し出たのに認めてもらえない人に向けて、時系列で注意点を整理します。
休職に入る前に確認すべき就業規則のポイント
休職はゴールではなくカウントダウンの始まりです。休職に入る前(すでに休職中でも今すぐ)、就業規則の次の項目を確認してください。
- 休職期間の上限: 勤続年数によって3か月〜数年まで会社ごとに幅があります
- 期間満了時の扱い: 「復職できない場合は退職とする(または解雇する)」という規定があるか
- 復職の条件: 「治癒」の定義や、診断書の要否、産業医面談の有無
- 休職中の賃金: 無給が一般的ですが、規定を確認
- 通算規定: 一度復職してすぐ再休職した場合、期間が通算されるか
就業規則は、労働者から求められれば会社は見せる義務があります(周知義務)。「見せてもらえない」こと自体が問題のある対応です。
休職期間満了=自動退職、という仕組みの怖さ
休職トラブルで最も深刻なのがここです。多くの会社の就業規則には「休職期間が満了しても復職できないときは退職とする」という規定があります。
これが意味するのは、解雇の手続きすら踏まれずに、期限が来たら自動的に労働契約が終了するということです。解雇であれば解雇権濫用の規制で争えますが、「期間満了による自然退職」という形式を取られると、争い方が変わってきます(それでも争えないわけではありません。後述します)。
つまり復職をめぐる攻防は、休職期間の残り日数との戦いでもあるのです。満了日がいつなのかを正確に把握することが何より重要です。
復職の可否は誰が決めるのか——主治医 vs 産業医
復職トラブルの典型は、こういう形で起きます。
主治医は「復職可能」の診断書を書いてくれた。ところが会社は「産業医が時期尚早と言っている」と復職を認めない。そのまま休職期間の満了が近づいてくる——。
主治医と産業医の判断は、しばしば食い違います。主治医は日常生活レベルの回復を見ており、産業医は職場の業務に耐えられるかを見ているためです。最終的に復職を判断するのは会社ですが、会社は判断を恣意的に行ってよいわけではなく、医学的な根拠に基づく必要があります。
対応のポイントは次の通りです。
- 主治医の診断書には「復職可能」とだけ書いてもらうのではなく、可能な業務の内容や条件(残業なし、当面は定時勤務など)を具体的に記載してもらう
- 産業医面談には必ず応じ、記録を残す(拒否すると「復職の意思・協力がない」と扱われかねません)
- 会社が復職を拒否するなら、その理由と根拠を書面で示すよう求める
「治癒」は完全回復だけを意味しない
会社側はよく「従前の業務を100%こなせるまで復職は認めない」という立場を取ります。しかし最高裁の判例では、職種を限定しない契約で働く労働者について、従前の業務に完全には戻れなくても、より軽い業務であれば働くことができ、その業務への配置が現実的に可能な場合には、会社はそれを検討すべきという考え方が示されています。
つまり「元の部署の元の仕事がフルにできないからダメ」という一点張りの拒否は、法的には通らない可能性があるのです。復職を申し出るときは、「軽減された業務からでも就労可能であり、その意思がある」ことを書面で明確に伝えておくと、後々の争いで意味を持ちます。
復職を認めてもらえないときの対応手順
- 満了日を確認し、逆算でスケジュールを立てる(残り2か月を切っていたら急ぐ)
- 主治医に具体的な就労条件付きの診断書を書いてもらう
- 復職願を書面(メール併用)で提出し、記録を残す——口頭のやりとりだけにしない
- 会社の拒否理由を書面で求める
- 拒否が続くなら外部へ——労働局のあっせん、労働審判などの手段があります。時間との勝負になるため、この段階では労働問題の取扱い実績がある弁護士への相談を強くおすすめします。弁護士を検索から探せます
満了退職になってしまった後でも、「復職可能だったのに会社が不当に拒否した」として退職扱いの無効を争った裁判例はあります。あきらめる前に一度、法的な評価を受けてみてください。
休職中のお金——傷病手当金を忘れずに
私傷病(業務外の病気・ケガ)で休職して給料が出ない場合、健康保険から傷病手当金が受けられます。支給額はおおむね給与の3分の2で、支給期間は通算1年6か月です。申請には医師の証明と会社の証明が必要ですが、会社が手続きに協力しない場合は、加入している健康保険の保険者(協会けんぽ・健康保険組合)に直接相談できます。
なお、その不調の原因が長時間労働やハラスメントなど仕事にあると考えられる場合は、話が根本から変わります。労災の休業補償の対象になりうるうえ、休職期間満了による退職の扱い自体が制限される可能性があるためです。「私傷病扱いでいいのか?」という視点は、早い段階で持っておいてください。
まとめに代えて——時間だけは取り戻せない
休職・復職のトラブルは、他の労働問題と違って明確なタイムリミット(休職期間満了日)があります。体調が万全でない中で会社と交渉するのは本当に消耗しますが、「元気になってから考えよう」と先送りした結果、満了日を過ぎてしまうのが一番避けたい展開です。
信頼できる家族に窓口を手伝ってもらう、早めに弁護士に交渉を任せる(費用の目安は費用相場へ)など、自分ひとりで抱えない形を作ることも、立派な復職戦略のひとつです。