男女問題

婚前契約書は日本でも有効?作り方と限界

弁護士マップ編集部
7分で読める

日本の民法には、明治時代から「婚前契約」の規定がある

「婚前契約なんてハリウッドセレブの話でしょ」と思っている人は多いのですが、実は日本の民法には、結婚前に夫婦の財産関係を契約で決めておく「夫婦財産契約」という制度が明治時代の民法制定当初から存在します。しかも法務局に登記する仕組みまで用意されています。

にもかかわらず、この制度の利用件数は年間ごくわずかにとどまり、存在すらほとんど知られていません。一方で近年、経営者や再婚カップル、国際結婚のカップルを中心に、登記まではしない私的な「婚前契約書」を交わす例は増えていると言われます。

つまり日本の婚前契約には、(1)民法上の夫婦財産契約(登記あり)と(2)私的な合意書としての婚前契約書、という2つの層があるのです。この違いを知らないまま「とりあえず書面を作った」だけでは、期待した効果が得られないことがあります。以下、疑問に答える形で整理します。

Q1. 婚前契約書は法的に有効なのか

有効になり得ます。契約自由の原則があるため、公序良俗に反しない内容であれば、婚姻前に交わした合意は当事者を拘束する契約として扱われ得ます。

ただし「書けば全部そのとおりになる」わけではありません。有効性は条項ごとに判断されますし、家族に関する事項には裁判所が後から調整を加える余地が残ります。「有効な部分と、参考程度にしかならない部分が混在する書面になり得る」というのが実像に近い理解です。

Q2. 夫婦財産契約と私的な婚前契約書は何が違うのか

項目夫婦財産契約(民法上の制度)私的な婚前契約書
締結の期限婚姻届の提出前まで婚姻の前後を問わず作成可能
登記婚姻届提出までに登記すれば第三者に対抗できる登記制度なし
変更婚姻後は原則として変更できない双方が合意すれば変更できる
主な対象夫婦の財産の帰属・管理財産に加え生活上の取り決めも書かれることが多い

夫婦財産契約の最大の特徴は、登記によって「夫婦以外の第三者」にも契約内容を主張できる点です。たとえば事業をしている人が、配偶者の財産と自分の事業リスクを明確に切り分けたい場合に意味を持ちます。反面、婚姻後は原則変更できない硬直性があり、この使いにくさが利用の少なさの一因とされています。

私的な婚前契約書は柔軟に作れますが、効力は基本的に当事者間にとどまります。実務ではこちらが主流です。

Q3. 何を決めておけるのか

よく盛り込まれるのは次のような事項です。

  • 結婚前からそれぞれが持っていた財産の帰属の確認(財産目録を付ける)
  • 婚姻中の収入・財産の管理方法、生活費(婚姻費用)の分担割合
  • 一方の事業・借金と家計を切り分けるルール
  • 離婚することになった場合の財産分与の考え方(対象財産の範囲、割合など)
  • 別居時の生活費の取り扱い
  • 家事・育児の分担、双方の親との付き合い方などの生活上の合意

このうち法的な拘束力という意味で中心になるのは財産に関する条項です。生活上の合意は、違反しても直ちに損害賠償請求できる性質のものではなく、「夫婦の価値観のすり合わせを文書化したもの」という意味合いが強くなります。ただ、この「すり合わせ」自体に結婚前の対話ツールとしての価値がある、という見方も広くあります。

Q4. 書いても無効になりやすい条項は

次のような条項は、無効と判断されたり、その条項だけ効力を否定されたりする可能性が高いと考えられています。

  • 離婚の自由を事実上奪う条項(「離婚を申し出た側が高額の違約金を払う」など過度なもの)
  • 子どもの親権者をあらかじめ決めておく条項(親権は離婚時に子の利益で判断されるため、事前の合意で確定できません)
  • 養育費を放棄させる条項(養育費は子どものための権利という性格が強く、親同士の合意だけで消せません)
  • 不貞行為を容認する、または不貞があっても慰謝料を請求しないとする条項(公序良俗の観点から問題になり得ます)
  • 一方の生活を著しく困窮させるような極端に不公平な条項

婚前契約は万能の設計図ではなく、「決められる領域」と「裁判所や子の利益が優先する領域」があることを前提に作る必要があります。

Q5. 婚姻後に「やっぱりなし」と言われたら

ここが日本の婚前契約の議論で最も悩ましい部分です。民法には「夫婦間でした契約は婚姻中いつでも取り消せる」という規定(754条)があり、婚前に交わした契約にこの規定が及ぶのかどうかは解釈に議論があります。婚姻前に締結した契約には適用されないという考え方や、夫婦関係が実質的に壊れた後の取消しは認めないとする判例の流れもありますが、「絶対に覆らない」と言い切れる状態ではありません。

だからこそ実務では、(1)内容を双方にとって合理的でバランスの取れたものにする、(2)作成の経緯(双方が内容を理解し自由な意思で署名したこと)を残す、(3)公正証書にする、といった方法で「覆されにくさ」を積み上げます。

Q6. 公正証書にする意味は

公正証書にすると、公証人が本人確認と意思確認をしたうえで作成するため、「そんな契約は知らない」「無理やり書かされた」という後日の争いに対して強くなります。また、金銭の支払いを内容とする条項に強制執行認諾文言を付ければ、不払い時に裁判を経ずに強制執行できる場合があります。私文書のまま持っておくより紛争予防効果は明らかに高く、婚前契約を作るなら公正証書化まで検討する価値があります。

Q7. 弁護士なしでも作れるのか

作れます。ひな形を参考に自分たちで文案を作り、公証役場に持ち込むことも制度上は可能です。この点は正直にお伝えします。

そのうえで、弁護士に文案作成やチェックを頼む意味は次の点にあります。

  • 無効になりやすい条項を除き、有効性の高い構成に整えられる
  • 財産目録の作り方、事業資産・株式・ストックオプションなど複雑な財産の扱いを設計できる
  • 双方が別々の弁護士に相談すれば、「一方的に署名させられた」という将来の主張を封じやすい

費用は事務所によって異なり、契約書作成として数万円台から、財産関係が複雑な場合はそれ以上になることもあります。目安は費用相場を参考にしてください。男女問題や相続・事業承継の取扱いが多い弁護士を探すなら弁護士を検索から絞り込めます。

Q8. 実際に作るときの手順は

私的な婚前契約書を公正証書で作る場合の、標準的な流れです。

  • 二人で話し合い、決めたい項目を洗い出す(財産目録の作成から始めると具体化しやすい)
  • 文案を作る(自作、または弁護士に依頼)
  • できれば双方がそれぞれ内容の説明を受け、理解と納得を確認する
  • 公証役場に文案と必要書類(本人確認書類、財産資料など)を持ち込み、公証人と内容を調整する
  • 二人で公証役場に出向き、公正証書として作成する

期間は内容の複雑さ次第ですが、話し合い開始から完成まで数週間〜数か月を見ておくと余裕があります。挙式や入籍日が決まっているなら、直前ではなく早めに着手するのが安全です。特に民法上の夫婦財産契約として登記まで行う場合は、婚姻届の提出前という締め切りが動かせないため、逆算が必須になります。

よくある失敗パターン

  • 入籍直前に一方が突然文案を突き付け、相手が内容を検討する時間がないまま署名した(後から「自由な意思ではなかった」と争われる火種になります)
  • ネット上のひな形をそのまま使い、自分たちの財産状況と合っていない条項が残っていた
  • 財産目録を付けず、「結婚前の財産」の範囲が結局曖昧なままだった
  • 無効になりやすい条項(親権の事前指定など)を核に据えてしまい、契約全体の信頼性が下がった

婚前契約を検討する価値が高いのはこんなカップル

  • 一方または双方が会社経営者・個人事業主(事業リスクと家計の切り分け)
  • 結婚前の資産に大きな差がある
  • 再婚で、前婚の子どもへの相続・養育費との調整が必要
  • 国際結婚で、適用される法律や財産の考え方が異なる
  • 過去の交際・婚姻でお金のトラブルを経験した

逆に、財産がシンプルで収入も同程度のカップルにとっては、法的な効果よりも「お金と生活の価値観を結婚前に全部話し合った」という事実のほうが大きな収穫になるかもしれません。婚前契約は「離婚の準備」ではなく、結婚生活の前提条件を二人で確認する作業——そう捉えると、検討のハードルはぐっと下がるはずです。

この記事をシェア

弁護士を探してみる

全国48,000名以上の弁護士情報・口コミ・懲戒処分歴を無料で確認できます。