中小企業・個人事業

起業前に知っておきたい法律の落とし穴|許認可・商標・利用規約

弁護士マップ編集部
7分で読める

起業準備の本やウェブ記事は、会社設立の手続、資金調達、マーケティングについては丁寧に教えてくれます。ところが、起業後に実際へこむ落とし穴の多くは、そのどれでもない場所に空いています。しかも厄介なことに、落とし穴の大半は「事業を始めた後」に発覚します。サービス名を広めた後に商標の問題が判明する、集客が軌道に乗った後に許認可が必要だったと知る、共同創業者と揉めてから株式の設計ミスに気づく――どれも、後から直すコストが「先に知っていれば数時間で済んだ手当て」の何十倍にもなるパターンです。

この記事では、起業相談の場で繰り返し登場する5つの落とし穴を、「典型的な事故 → なぜ起きるか → 起業前にできる手当て」の形で見ていきます。

落とし穴1:その事業、許認可が必要かもしれない

典型的な事故:中古ブランド品の転売ビジネスを始めて数ヶ月、古物商許可が必要と知る。無許可営業は刑事罰の対象で、慌てて営業を止めることに。

なぜ起きるか:許認可が必要な業種は想像以上に幅広く、しかも「それっぽくない」ものほど見落とされます。

  • 中古品の売買・買取 → 古物商許可
  • 人材紹介・求人マッチング → 有料職業紹介事業の許可
  • 労働者を他社に送り込む形態 → 労働者派遣事業の許可(業務委託のつもりが実態は派遣、という「偽装請負」の問題も)
  • 自家製食品の販売 → 食品衛生法上の営業許可・届出
  • 旅行ツアーの企画販売 → 旅行業登録
  • お金を貸す・後払いを仕組み化する → 貸金業登録や資金決済法の検討
  • 民泊 → 住宅宿泊事業の届出等

防ぎ方:事業内容を一文で説明できるようにして、管轄しそうな役所(警察署、保健所、都道府県の担当課など)に事前に問い合わせるのが最も確実です。許認可の申請実務は行政書士の主要業務なので、弁護士でなくても相談先はあります。グレーな新規ビジネス(既存の規制のどれに当たるか不明確な事業)の場合は、規制の解釈が論点になるため、弁護士への相談や、国のグレーゾーン解消制度の利用が選択肢になります。

落とし穴2:会社名・サービス名は「登記できた」では安心できない

典型的な事故:法務局で商号登記が通ったのでサービス名を決定し、ロゴ・ドメイン・印刷物に投資。1年後、同名の商標権者から警告書が届き、名称変更を余儀なくされる。

なぜ起きるか:商号(会社名の登記)と商標(商品・サービス名の独占権)は別制度だからです。登記は同一住所に同一商号がなければ通りますが、それは商標権を侵害しないことを何ら保証しません。逆に、自分が先に使っていても、商標登録をしていなければ、後から他人に登録されて使えなくなるリスクがあります(先使用権という防御はありますが、認められる条件は厳しめです)。

防ぎ方:名称の候補が決まったら、特許庁のデータベース(J-PlatPat)で類似の商標がないか無料で検索できます。商標は「区分」(商品・サービスのカテゴリ)ごとに登録される仕組みなので、同じ名前でも自分の事業と別分野の登録なら問題にならないこともあり、逆に自分が登録する際もどの区分で押さえるかが論点になります。本格的な調査と出願は弁理士の業務領域です。出願には費用がかかるため、すべての起業で必須とまでは言いませんが、少なくとも「ロゴやドメインに投資する前に検索だけはする」を習慣にするだけで、最悪の事故は避けられます。

落とし穴3:利用規約・契約書のコピペ

典型的な事故:同業他社の利用規約をほぼコピーしてサービスを開始。トラブルが起きて規約を読み返すと、自社のビジネスモデルと合っておらず、肝心の場面で自社を守る条項がなかった。

なぜ起きるか:利用規約は「どの会社もだいたい同じ」に見えますが、実際は、課金のタイミング、解約・返金の条件、禁止行為、免責の範囲、ユーザーが投稿したコンテンツの権利処理など、ビジネスモデルに密着した設計物です。他社の規約は他社のモデル用に書かれています。さらに、消費者向けサービスの場合、消費者契約法により「事業者は一切責任を負わない」型の条項は無効とされるため、強気な免責を書けば守られるというものでもありません。そもそも他社の規約の丸写しは、著作権の観点でも問題になり得ます。

防ぎ方:ひな形を出発点にすること自体は現実的な選択です。ただし「お金の流れ」「解約・返金」「責任の上限」の3か所だけは、自社のモデルに合わせて必ず作り込む。ここは事故ったときの金額が大きい部分であり、リリース前に弁護士のレビューを受ける費用対効果が最も高い箇所でもあります。規約全体のフルオーダーが予算的に難しくても、スポットのレビュー依頼という形があります。

落とし穴4:共同創業者と「株式の話」をしていない

典型的な事故:友人と50%ずつで会社を設立。1年後に一人が離脱したが、株式はそのまま。残ったメンバーがどれだけ会社を成長させても、辞めた元共同創業者が50%を持ち続け、重要な意思決定が何もできない会社に。

なぜ起きるか:創業時は関係が良好なので、「揉めたとき」「辞めたとき」の取り決めを話しにくいからです。しかし50:50の資本構成は、対立した瞬間にすべての決議が通らなくなるデッドロック構造ですし、退職者の株式を買い取る合意がなければ、株は本人のものであり続けます。

防ぎ方:複数人で起業するなら、創業株主間契約を設立時に結んでおくのが定石です。中核は「離脱した創業者の株式を、残るメンバーが取得価額等で買い取れる」という条項(在籍期間に応じて買い取り対象が減っていく設計もあります)。将来の資金調達を考えるなら、投資家がこの契約の有無を確認することもあります。これはまさに弁護士に相談すべきテーマで、設立時のわずかな費用で、会社の将来を左右する紛争を予防できます。

落とし穴5:前職との関係と、下請け・フリーランス取引のルール

典型的な事故:前職と同業で起業し、在職中に接点のあった顧客に営業をかけたところ、前職から競業避止義務違反と営業秘密の持ち出しを主張する警告書が届く。

なぜ起きるか:退職時に署名した誓約書の内容を覚えていない人が多いからです。競業避止義務の合意は、期間・地域・範囲が広すぎれば無効と判断されることもありますが、有効とされる余地もあり、個別判断です。また、顧客リストや設計データの持ち出しは、不正競争防止法違反として損害賠償や刑事責任の問題になり得ます。

防ぎ方:前職の誓約書・就業規則を確認し、際どい場合は起業前に弁護士へ相談する。前職のデータは一切持ち出さない、が原則です。

また、発注側に回る場面では、フリーランスへの業務委託について、取引条件の明示や報酬支払期日などの義務を定めた法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)が施行されています。下請法とあわせて、「発注する側にもルールがある」ことは、起業初日から意識しておきたい点です。

優先順位のつけ方

5つすべてに完璧な手当てをしてから起業する必要はありません。判断の軸は「後から直せるか」です。

落とし穴後からの修正起業前の手当てコスト
許認可困難(営業停止・刑事罰リスク)低(役所への確認)
商標高コスト(名称変更・ブランド損失)低(無料検索+必要なら出願)
利用規約中(改定は可能だが既存ユーザー対応が必要)
創業株主間契約極めて困難(揉めた後では合意できない)低〜中
前職との関係困難(紛争化してからでは遅い)低(書面確認)

「後から直せないもの」=許認可・創業株主間契約・前職関係を最優先に、次に商標、規約は最低限の3か所、という順番が一つの目安です。

すべてを弁護士に頼む必要はなく、許認可は行政書士、商標は弁理士、登記は司法書士と、テーマごとに適した相談先があります。そのうえで、契約・株式・前職との紛争リスクといった論点は、スタートアップ支援や企業法務の取扱いが多い弁護士に早めに相談する価値があります。弁護士を検索で地域と分野から候補を探し、費用感は費用相場で確認してみてください。起業前の1〜2時間の相談が、起業後の1〜2年分の紛争を消してくれることは、決して珍しくありません。

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