原則はシンプル:「家族でも、他人の借金を払う義務はない」
夫の借金、親の借金、子どもの借金。家族の借金が発覚したとき、多くの人が「家族なのだから自分が払わなければ」と考える。債権者や取り立て側も、時にそれを前提にしたような請求をしてくる。
しかし、法律の原則ははっきりしている。借金は契約した本人だけの債務であり、家族というだけで支払義務を負うことはない。夫婦でも、親子でも、同居していても、この原則は変わらない。業者から「ご家族なんだから」と支払いを求められても、応じる法的義務はないし、保証人でない家族への執拗な請求は貸金業法上問題になりうる行為だ。
問題は、この原則に3つの重大な例外があることだ。「保証」「相続」「日常家事債務」。家族の借金に関する悩みは、ほぼすべてこの3つの境界線上で起きる。以下、ケース別に見ていく。
ケース1:配偶者の借金——署名した覚えがあるかどうか
夫(妻)のカードローンや消費者金融の借金は、原則どおり配偶者に支払義務はない。離婚しても、借金の名義人が変わるわけではない。
例外は2つ。第一に、自分が保証人・連帯保証人として契約している場合。住宅ローンのペア契約や、配偶者の事業融資の保証などが典型だ。署名した記憶が曖昧なら、契約書の確認を求めるところから始める。なお、勝手に配偶者名義で借りられていた(署名偽造)なら、原則として名義人に支払義務はないが、放置せず早めに法的対応をとる必要がある。
第二に、日常家事債務。民法には、夫婦の一方が日常の家事に関して負った債務は連帯責任になるという規定がある(民法761条)。食費・光熱費・子どもの学費など、家庭生活に通常必要な範囲の債務がこれにあたる。ただし、ギャンブルや遊興のための借金、生活実態とかけ離れた高額の借入は「日常の家事」の範囲外とされるのが一般的な理解だ。カードローン数百万円が日常家事債務と認められることは通常考えにくい。
ケース2:親の借金——生前は無関係、死後は「相続」で一変する
親が存命の間、子に支払義務はない。親の借金の督促が子に来ても、支払う義務はないし、肩代わりを迫る取り立ては拒否できる。親の借金が深刻なら、親自身の債務整理(高齢で収入が年金のみなら自己破産や、状況によっては時効援用など)を検討するのが本筋で、子が仕送りで穴埋めし続けるのは解決を遅らせがちだ。
事態が一変するのは相続の瞬間だ。相続は預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も引き継ぐ。何もしなければ「単純承認」となり、親の借金は法定相続分に応じて相続人の債務になる。
これを避ける手段が相続放棄だ。押さえるべきポイントは次のとおり。
- 期限は「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内(熟慮期間)
- 家庭裁判所への申述が必要。「相続人同士の話し合いで放棄した」は法的な相続放棄ではなく、債権者には対抗できない
- 放棄すればプラスの財産も一切受け取れない。実家の不動産も対象になる
- 相続財産を処分・消費すると単純承認とみなされ、放棄できなくなるおそれがある。親の預金を葬儀後に引き出して使う、遺品の高価なものを売る、といった行為は放棄の前に要注意
- 死後3か月を過ぎてから借金が発覚した場合でも、事情によっては放棄が認められた裁判例があるため、あきらめずに弁護士へ相談する価値がある
プラスとマイナスのどちらが多いかわからない場合は、相続財産の範囲内でのみ債務を引き継ぐ「限定承認」という制度もあるが、相続人全員で行う必要があるなど手続きが重く、利用は多くないとされる。
ケース3:子ども・きょうだいの借金——「親の責任」は法的義務ではない
成人した子どもの借金を親が払う義務はない。きょうだい間も同じだ。「親として monetary な責任がある」という感覚と、法的義務は別の話として切り分けてよい。
ここで注意したいのが安易な肩代わりと名義貸しだ。子の借金を親が繰り返し肩代わりすると、本人の金銭感覚の立て直しが遠のくうえ、親の老後資金が削られていく。また、「自分は審査に通らないから」と頼まれて親名義でローンを組む名義貸しは、返済が滞れば全額が名義人(親)の債務になるだけでなく、金融機関への虚偽申告として契約上・法律上の問題を生む。断る正当性は十分にある。
家族としての支援を考えるなら、金銭を渡すのではなく、本人を債務整理の相談に連れて行くほうが、結果として本人のためになることが多い。
境界線の早見表
| 状況 | 支払義務 |
|---|---|
| 配偶者のカードローン(保証なし) | なし |
| 配偶者の借金の連帯保証人になっている | あり |
| 家計のための立替・生活費由来の債務 | 連帯責任になりうる(日常家事債務) |
| 存命の親の借金 | なし |
| 死亡した親の借金(何もしない場合) | 相続により引き継ぐ |
| 死亡した親の借金(3か月内に相続放棄) | なし |
| 成人した子・きょうだいの借金(保証なし) | なし |
迷ったら、どの時点で相談すべきか
家族の借金問題で弁護士への相談が特に有効なのは、次の3つのタイミングだ。
- 保証契約の存在や有効性に疑いがあるとき(署名の覚えがない、極度額の記載がない根保証など)
- 家族が亡くなり、借金の有無がはっきりしないとき——3か月の熟慮期間は延長を申し立てられる場合があるが、いずれにせよ時間との勝負になる
- 本人(借りた家族)の債務整理を検討するとき——本人が動けないなら、家族が相談に同行する形でも進められる
相続・債務整理の取扱いが多い弁護士は弁護士を検索から地域で絞って探せる。費用感は費用相場を参考にしてほしい。
家族の借金問題で最も避けたいのは、「義務がないのに払い続けて共倒れになる」ことと、「義務が生じる期限(相続放棄の3か月)を知らずに過ごす」ことの2つだ。原則と例外の境界線さえ知っていれば、そのどちらも防げる。