「未納料金があります。本日中にご連絡なき場合、法的手続きに移行します」——このようなSMSやメール、ハガキへの正しい対応として「無視すればいい」という知識は、かなり広まりました。この知識は、多くの場合正しいです。
しかし、「無視でいい」だけを覚えていると、まれにある例外で致命傷を負うことがあります。この記事は、あえて例外から考えます。無視してはいけないものが何かを先に知っておけば、それ以外は安心して無視できるからです。
唯一の例外:裁判所からの本物の書類
架空の請求であっても、業者が本当に裁判所へ支払督促や少額訴訟を申し立ててくることが、ごくまれにあります。このとき裁判所から届く書類を「どうせ詐欺だろう」と放置すると、重大な結果になります。
- 支払督促に2週間以内に異議を出さないと、請求が確定し、給料や預金の差押えが可能な状態になり得ます
- 訴訟の呼出しを無視して欠席すると、相手の言い分どおりの判決が出るのが原則です
請求の中身がデタラメでも、手続きを放置すれば法律上は「負け」が確定する——これが例外の恐ろしさです。逆に言えば、異議申立書を出しさえすれば通常の裁判手続きに移り、架空の請求が認められることはまずありません。異議のハードルは高くありません。
本物の裁判所書類の見分け方
詐欺グループは「裁判所」「訴訟最終通知」などの言葉で本物を装います。見分けるポイントは次のとおりです。
- 届き方:本物の支払督促や訴状は、特別送達という特殊な郵便で、郵便局員から手渡しで届きます。受け取りにサインや押印を求められます。普通郵便のハガキ、SMS、メールで届く「裁判通知」は本物ではありません。
- 確認方法:書類に書かれた電話番号には絶対にかけず、自分で検索して調べた裁判所の代表番号に電話し、事件番号を伝えて実在するか確認します。詐欺書面には偽の連絡先が書かれています。
- 本物だと確認できたら、その時点で弁護士に相談してください。異議申立てには期限があります。お近くの相談先は弁護士を検索から探せます。
それ以外は、なぜ無視でいいのか
例外を押さえたところで、原則の理屈も知っておきましょう。理屈が分かると、不安に振り回されなくなります。
- 契約が成立していないから:ワンクリック詐欺の「ご登録ありがとうございました」は、契約の成立要件を満たしません。ネット上の契約では、申込内容と料金の確認画面を経る必要があり、それがない「登録」に支払義務は生じません。
- 相手はあなたを特定できていないから:サイトを閲覧しただけで、氏名や住所が相手に伝わることは基本的にありません。画面に表示される「IPアドレス」「端末情報」で個人の自宅が特定されることもありません。連絡してしまわない限り、相手は請求書の送り先すら知らないのです。
- 実在企業をかたるSMSも同じ:大手通信会社や動画サービスの名をかたる未納通知は、記載の番号にかけさせることが目的です。心当たりがあるなら、公式アプリや公式サイトのマイページで自分から確認すれば足ります。
やってはいけないこと
- 記載された電話番号に「間違いだと伝えるため」かける(電話に出た時点で、生きている連絡先として次の標的になります)
- 「退会手続き」「誤登録の取消し」のためにメールを送る、個人情報を入力する
- 「少額だから」「面倒だから」と払う(一度払うと、名簿に載り請求が続く傾向があります)
- 不安のあまり、SNSで見つけた「請求を止める代行業者」に頼む(二次被害の温床です)
連絡してしまった・払ってしまった場合
すでに電話やメールをしてしまっても、慌てる必要はありません。氏名や住所を伝えていなければ、着信拒否・受信拒否で遮断すれば足ります。しつこい督促の電話が続く場合も、応答しないことです。
払ってしまった場合は、支払方法に応じて動きます。銀行振込なら金融機関へ口座凍結の相談(振り込め詐欺救済法)、ギフトカードなら発行元へ使用停止の相談、クレジットカードならカード会社へ。並行して警察(#9110)と消費生活センター(188)に相談してください。金額が大きい場合や、脅迫めいた取立てが続く場合は、弁護士に相談する段階です。弁護士が代理人として受任通知を出すことで、直接の請求が止まる効果も期待できます。相談前に費用相場で費用感を確認しておくとよいでしょう。
まとめ——判断フローはシンプル
- 特別送達で届いた裁判所の書類か? → YESなら裁判所の代表番号で実在確認のうえ、期限内に対応(弁護士へ)
- それ以外のSMS・メール・ハガキ・電話か? → 連絡せず、払わず、無視。不安なら188へ
「無視でいい」の知識に、「裁判所の本物だけは無視しない」を書き加えてください。この一行が、あなたと家族を守ります。