中小企業・個人事業

事業承継で弁護士にできること|税理士だけでは足りない場面

弁護士マップ編集部
7分で読める

「事業承継の相談先」と聞いて、真っ先に浮かぶのは税理士ではないでしょうか。実際、自社株の評価や相続税・贈与税の試算、事業承継税制の適用検討は税理士の領域で、承継の実務は税理士主導で進むことがほとんどです。

しかし、承継が「もめる」原因の多くは税金ではありません。後継者以外の相続人との対立、分散した株式、先代の口約束、連帯保証の引き継ぎ――こうした問題は税務の枠外にあり、税金の計算が完璧でも承継そのものが頓挫することがあります。

この記事では、「税理士に任せているから大丈夫」と思っている経営者にこそ知ってほしい、法律面の論点を場面別に整理します。

場面1:株式が分散している、または分散しそう

中小企業の承継で最も根深い問題が、株式の分散です。

先代が亡くなり、株式が後継者・後継者の兄弟・先代の配偶者に法定相続分どおり分かれたとします。後継者の持株が過半数に届かなければ、役員の選任すら単独ではできません。3分の2に届かなければ、定款変更や組織再編といった重要な決定ができません。「社長は継いだが、会社を動かす権限は継げていない」状態です。

すでに分散してしまった株式を買い集める場面でも、価格交渉、譲渡承認手続、応じない株主への対応(スクイーズアウトと呼ばれる少数株主の締め出し手法の検討を含む)など、会社法の手続を正確に踏む必要があります。手続に瑕疵があると、後から株主総会決議の効力を争われるリスクが残ります。

ここは税理士の業務範囲を超える、弁護士の関与が生きる典型場面です。

場面2:後継者以外の相続人がいる(遺留分の問題)

「株式は全部長男に」と遺言を書いても、それで終わりではありません。他の相続人には遺留分(法律上保障された最低限の取り分)があり、自社株が遺産の大半を占める会社では、後継者が他の相続人から金銭の支払いを請求される可能性があります。現在の制度では、遺留分の侵害は金銭で請求される仕組みになっているため、後継者は「株は守れたが現金が用意できない」という事態に直面しかねません。

これに備える制度として、経営承継円滑化法には遺留分に関する民法の特例があります。推定相続人全員の合意により、自社株を遺留分の計算から除外する(除外合意)、または合意時点の価額に固定する(固定合意)ことができる制度で、家庭裁判所の許可などの手続を経て効力が生じます。

この特例の利用判断、合意書の作成、他の相続人との交渉は、まさに法律事務です。生前に手を打てるかどうかで、承継後の紛争リスクは大きく変わります。

場面3:名義株・所在不明株主がいる

古い会社に特有の問題として、名義株があります。かつて株式会社の設立に複数の発起人が必要だった時代、親族や知人の名前だけを借りて株主にした、というケースです。

帳簿上の株主と実質的な所有者が食い違ったまま承継やM&Aを迎えると、「あの株は本当は自分のものだ」という主張が出て紛争になったり、M&Aの買い手から株式の帰属が不明確だとして取引を敬遠されたりします。名義株の整理は、事実関係の証拠収集と法的な整理(確認書の取得や、場合によっては訴訟)が必要になる作業で、放置期間が長いほど関係者が亡くなって解決が難しくなります。

場面4:経営者保証を引き継ぐかどうか

会社の借入に先代が個人保証をしている場合、「後継者もそのまま保証を引き継ぐのか」は承継の大きな関門です。後継者候補が承継をためらう理由として、個人保証の負担はよく挙げられます。

この点については「経営者保証に関するガイドライン」が公表されており、一定の条件(法人と個人の資産の分離、財務状況の開示など)を満たす場合に、保証を求めない融資や保証の解除を金融機関と交渉する道筋が示されています。ガイドラインは法的拘束力を持つものではありませんが、金融機関との交渉の土台になります。財務面の整理は税理士、交渉の組み立てと法的な整理は弁護士、と役割を分担して進めるのが現実的です。

場面5:親族外承継・M&Aで会社を譲る

親族に後継者がおらず、従業員承継や第三者へのM&Aを選ぶ場合、法律面の比重はさらに上がります。

  • 秘密保持契約、基本合意書、株式譲渡契約書の内容確認・交渉
  • 表明保証(会社の状態について売り手が保証する条項)の範囲と、違反時の補償責任の設計
  • 簿外債務、未払残業代、契約上の問題点など、買い手のデューデリジェンスで指摘される事項への対応

特に表明保証は、譲渡後に「聞いていなかった問題」が見つかったときに売り手が金銭補償を求められる根拠になる条項で、内容を理解せずに署名すると、会社を譲った後まで責任を追いかけられることがあります。仲介会社は取引の成立を支援する立場であり、売り手の利益だけを代弁する立場ではない点も、押さえておきたいところです。契約書は署名前に、売り手側の立場でレビューする弁護士を入れる価値があります。

場面6:取引契約と許認可は「自動では」引き継がれないことがある

見落とされがちなのが、会社を取り巻く契約と許認可の承継です。

株式譲渡の形なら会社の法人格は変わらないため、契約や許認可は原則そのまま維持されます。ただし、取引基本契約やリース契約、賃貸借契約には「経営権・支配株主が変わったら相手方は契約を解除できる」というチェンジオブコントロール条項が入っていることがあり、承継のタイミングで主要取引先から契約を見直されるリスクがあります。事業譲渡の形を取る場合はさらに注意が必要で、契約は相手方の同意を得て個別に引き継ぐ必要があり、建設業や運送業などの許認可も原則として譲受側が取り直しになります。

「どの契約に何が書いてあるか」を承継前に棚卸しし、必要な同意取得の段取りを組む作業は、契約書を読み解く仕事そのものです。ここを飛ばして承継の日を迎えると、承継直後に売上の柱が揺らぐことになりかねません。

税理士・他士業で足りるケースも正直に

すべての承継に弁護士が必要なわけではありません。

  • 後継者が一人で、他に相続人がいない、または相続人全員が円満に合意している
  • 株式がすでに現経営者に100%集中している
  • 個人保証や係争の火種がない

こうしたケースでは、税務は税理士、登記は司法書士、という布陣で完結することも十分あります。逆に言えば、「複数の相続人」「分散株式」「個人保証」「M&A」のどれかが絡んだ時点で、法律面の検討を入れる意味が出てきます。

いつから始めるか:後ろから逆算する

事業承継の準備は「引退の直前」では間に合わないことが多い、という点は強調しておきたいところです。理由は単純で、この記事で挙げた論点の多くが、時間のかかる作業だからです。

  • 分散株式の買い集めや名義株の整理は、相手のある交渉であり、数年がかりになることもあります
  • 遺留分特例は推定相続人全員の合意が前提で、家族間の話し合いには機が熟すのを待つ時間も必要です
  • 後継者の育成や、金融機関との保証見直しの交渉も、実績を積み重ねてはじめて進む話です

また、準備が遅れて経営者が認知症などで判断能力を失うと、株主総会の議決権行使も株式の贈与・譲渡もできなくなり、承継は事実上凍結されます。こうした事態への備えとして、任意後見契約や、株式を信託して議決権の行使者を定めておく民事信託(家族信託)といった仕組みが使われることもあります。これらの設計も、税務と法務の両輪で検討する領域です。

「まだ元気だから早い」のではなく、元気なうちしか選べない選択肢がある――事業承継はそういう分野だと考えておくのが安全です。

相談時に弁護士へ聞いておきたいこと

事業承継は、会社法・相続法・金融実務が交差する分野です。初回相談では、次のような質問で経験値を確かめるとよいでしょう。

  • 事業承継や株式の集約に関する案件の取扱い経験はどの程度あるか
  • 経営承継円滑化法の遺留分特例を使った経験はあるか
  • 税理士と連携して進める場合の役割分担はどうなるか
  • 想定される総費用と、フェーズごとの費用の区切り方

費用体系は事務所によって、タイムチャージ制・フェーズごとの固定報酬などさまざまです。目安は費用相場で確認できます。企業法務や事業承継の取扱いが多い弁護士を検索して、税理士と併走できる体制を早めに作っておくことが、承継を「相続争いの舞台」にしないための備えになります。承継の準備は、経営者が元気なうちに始めるほど選択肢が多く残ります。

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