印鑑を押したあの日、説明されなかったこと
「迷惑はかけないから」。親族や友人にそう頼まれて保証人欄に署名した日のことを、請求書が届いて初めて思い出す人は多い。保証契約の怖さは、契約したことを忘れた頃、主債務者(借りた本人)が払えなくなった瞬間に、突然自分の債務として現れることにある。
そして請求が来た人の大半は、2つのことを知らない。ひとつは、自分が「保証人」なのか「連帯保証人」なのかで持っている権利がまるで違うこと。もうひとつは、請求されたからといって、その金額をそのまま払うのが正解とは限らないことだ。この記事では、請求が来た局面での確認事項と対応を、順を追って整理する。
まず契約書を確認:「保証人」と「連帯保証人」は別物
法律上、単なる保証人には3つの権利があるが、連帯保証人にはいずれもない。
| 権利 | 保証人 | 連帯保証人 |
|---|---|---|
| 催告の抗弁(「まず本人に請求して」と言える) | あり | なし |
| 検索の抗弁(「本人に財産があるからそちらへ」と言える) | あり | なし |
| 分別の利益(保証人が複数なら頭数で割った分だけ負う) | あり | なし |
実務の金銭消費貸借では、圧倒的多数が「連帯保証」だとされる。連帯保証人は、本人に資力があろうと、いきなり全額を請求されても法的には拒めない。まず契約書の文言を確認し、「連帯して保証する」とあるかどうかを見る。契約書の控えが手元になければ、債権者に写しの交付を求めることができる。
支払う前の確認リスト
請求書が届いても、即座に振り込むのは待ってほしい。次の点を確認してからでも遅くない。
- 本当に自分が保証契約を結んだか:保証契約は書面(または電磁的記録)でしなければ効力を生じない。口約束だけなら保証債務は発生していない。また、勝手に名前を使われた(署名・押印の偽造)なら、そもそも契約は無効を主張できる
- 請求額の内訳:元本・利息・遅延損害金の内訳を確認する。利息制限法の上限を超える利息が乗っていないか、過大な損害金が積まれていないか
- 主債務の時効:主債務が長期間放置されていた場合、時効を援用できる可能性がある。保証人は主債務の時効を援用できるとされており、安易に一部を支払うとこの主張が難しくなる。心当たりがあれば支払い前に弁護士に確認を
- 極度額の定め(根保証の場合):2020年施行の民法改正により、個人が事業用の貸金等を含む根保証(継続的な取引をまとめて保証する契約)をする場合、極度額(上限額)を書面で定めなければ無効とされた。改正後の契約で極度額の記載がない根保証なら、無効を主張できる可能性がある
- 主債務者の状況:本人は破産したのか、行方不明なのか、単に滞納しているだけなのか。本人にまだ資力があるなら、本人に払わせる交渉の余地がある
このどれかに引っかかる場合、請求額が減る、あるいは支払義務自体が否定される可能性がある。逆に、すべてクリアなら支払義務からは逃れられない。その場合は次の段階、「どう払うか・払えない場合どうするか」に進む。
支払える場合:求償権を忘れずに
保証人が支払った金額は、本来は主債務者が負担すべきものだ。支払った保証人は、主債務者に対して「立て替えた分を返せ」と請求できる。これを求償権という。
現実には、主債務者に資力がないから保証人に請求が来ているわけで、回収できないことも多い。それでも、後日本人の資力が回復する可能性や、相続の場面などに備えて、支払いの記録(振込明細・領収書・債権者とのやり取り)は残しておくべきだ。支払時に債権者から代位に関する書類を受け取っておくと、その後の求償に役立つ。
また、一括で払えないが分割なら払える、という場合は、債権者と分割払いの交渉ができる。ここでの和解条件は今後数年の生活を左右するので、金額が大きいなら弁護士を挟んで交渉することも検討してよい。
支払えない場合:保証人自身の債務整理という選択肢
保証債務も、自分名義の借金と法的な扱いは同じだ。支払いきれないなら、保証人自身が任意整理・個人再生・自己破産を検討することになる。
- 保証債務の額が大きく、他に自分の借金もあるなら、まとめて整理する設計になる
- 持ち家を守りたいなら、住宅資金特別条項つきの個人再生が選択肢になりうる
- 「自分は1円も使っていない借金で破産するのは納得いかない」という感情は当然だが、法律上、保証債務の免責に特別な障害はない
なお、「保証人を外れる」ことは、債権者の同意がない限り原則としてできない。主債務者に代わりの担保や保証人を用意してもらい、債権者と三者で合意する、といった限られた道しかないのが実情だ。
これから保証を頼まれた人へ:断る判断材料
最後に、予防の話を短く。今まさに保証を頼まれている人は、次を自問してほしい。
- その金額を「自分が全額払う」ことになっても生活が壊れないか(連帯保証とはそういう契約だ)
- 主債務者の返済計画・収入を、自分は具体的に把握しているか
- 根保証なら、極度額はいくらに設定されているか
答えに詰まるなら、断るのが合理的だ。事業融資については、経営者以外の個人が保証する場合に公証人による意思確認手続きを要する仕組みも導入されており、法律自体が「個人の安易な保証」を抑える方向に動いている。
相談のタイミング
保証債務の問題は、(1) 支払義務の有無・範囲の検証、(2) 債権者との交渉、(3) 自身の債務整理、と論点が多層的で、独力での見極めが難しい分野だ。請求書が届いた段階、できれば「主債務者の滞納を知った」段階で、保証・債務整理の取扱いが多い弁護士に相談することをすすめる。弁護士を検索で地域と分野から探せるほか、費用の目安は費用相場にまとめている。請求書への対応期限が迫っている場合も、無視だけはせず、その旨を含めて相談してほしい。