ネットトラブル

ネット誹謗中傷の慰謝料請求|費用倒れを避ける考え方

弁護士マップ編集部
5分で読める

「訴えてやる」と決意した人に、水を差すようで恐縮ですが、最初に電卓の話をさせてください。

ネット誹謗中傷の慰謝料請求には、「費用倒れ」という固有の問題があります。かけた費用が、取れた賠償額を上回ってしまう現象です。これは弁護士が儲けすぎだから起きるのではなく、匿名相手の請求という構造そのものに原因があります。構造を知らずに走り出すと、経済的にも精神的にも消耗します。逆に、構造を知っていれば、費用倒れを避ける工夫も「あえて費用度外視で進む」判断も、自分の意思でできるようになります。

なぜ費用倒れが起きるのか:手続きが「二階建て+α」だから

交通事故の賠償請求なら、相手は最初から分かっています。しかしネットの誹謗中傷では、賠償請求を始める前に「相手を特定する」という手続きが丸ごと必要です。

  • 第1段階: 投稿されたサイトの運営者に、IPアドレス等の開示を求める手続き
  • 第2段階: 判明した接続プロバイダに、契約者情報の開示を求める手続き
  • 第3段階: 特定できた相手への示談交渉、まとまらなければ損害賠償請求訴訟

各段階に弁護士費用と実費がかかります。法改正で第1・第2段階を一体的に進められる開示命令手続きが新設され、負担は以前より軽くなったと言われていますが、それでも「請求の前に特定のコストがかかる」構造自体は変わりません。

一方、受け取れる側の慰謝料はどうか。金額は投稿の内容・拡散規模・被害の実態によって大きく異なり、一概には言えません。ただ一般論として、ネットの名誉毀損やプライバシー侵害の慰謝料は、世間がイメージするほど高額にならないことが多いと指摘されています。ここに、特定コストが慰謝料を上回る「逆転」が生まれる余地があります。

費用倒れを避ける4つの考え方

1. 「何のために請求するのか」を先に決める

目的によって、最適な手段は変わります。

  • 投稿を消したいだけ → 削除請求のみで完結できれば、特定コストは不要です
  • 二度と書かせたくない(抑止) → 特定と、示談での再発防止合意が中心になります
  • 金銭的な償いをさせたい → 費用対効果の検討が最重要になります
  • 社会的なけじめ(刑事処罰)を求めたい → 刑事告訴という別ルートも視野に入ります

「全部」と答えたくなりますが、優先順位を一つ決めるだけで、かけるべき費用の上限が見えてきます。

2. 弁護士費用も加害者に請求できる場合があることを知る

不法行為に基づく損害賠償では、弁護士費用の一部(実務では認容額の1割程度と言われます)が損害として認められることがあります。また、投稿者の特定に要した調査費用(開示手続きの費用)についても、損害として賠償請求の対象になり得ます。満額回収できるとは限りませんが、「かけた費用が全額自己負担で終わるとは限らない」ことは、計算に入れてよい要素です。

3. 示談での解決を視野に入れる

特定後、訴訟までいかずに示談で解決すれば、訴訟分の費用と時間を節約できます。相手にとっても、刑事告訴を避けたい・訴訟の公開を避けたいという動機があるため、示談交渉は現実的な着地点になりやすいのです。示談金の水準は交渉次第ですが、訴訟コストの節約分を織り込んで判断することになります。

4. 複数投稿・複数人なら状況が変わる

同一人物が大量に投稿している場合、特定コストは1回で済み、賠償請求の対象は積み上がります。悪質性の評価も変わり得ます。逆に、単発の軽い悪口1件のためにフル手続きを走らせるのは、経済合理性の観点では厳しい、というのが正直なところです。

それでも「費用度外視」に価値がある場合

費用対効果がすべてではありません。次のような場合、経済的には赤字でも請求する価値があると考える人は多くいます。

  • 放置すれば投稿がエスカレートし、仕事や家族に実害が広がる状況
  • 商売への攻撃で、売上減という別の損害が現に発生している(この場合は慰謝料以外の損害賠償も検討対象です)
  • 「匿名なら何をしてもいい」という相手に、そうではないと示す必要がある場合

大切なのは、赤字になり得ることを知った上で、自分の意思で選ぶことです。知らずに始めて途中で息切れするのが、いちばん不幸なパターンです。

弁護士との初回相談で聞くべきこと

費用倒れ問題は、相談の場で正面から聞いてしまうのが一番です。質問例をそのまま載せます。

  • 「この投稿は、開示請求が認められる見込みがどの程度ありそうですか」
  • 「特定から解決までの費用総額は、最大でどのくらいを見ておくべきですか」
  • 「私のケースで、費用倒れになる可能性は率直に言ってどうですか」
  • 「削除だけで終える場合と、特定まで進む場合の費用差はどれくらいですか」
  • 「着手金型と成功報酬型、どちらの料金体系ですか」

これらに率直に答えてくれる弁護士は、信頼に値します。逆に、見通しを聞いても景気のいい話しかしない場合は、他の事務所の意見も聞いてみてください。費用体系の一般的な考え方は費用相場で、依頼者の実体験は口コミ一覧で確認できます。

時間の制約だけは忘れずに

最後に一つだけ注意を。費用対効果をじっくり考えること自体は正しいのですが、投稿者の特定にはアクセス記録の保存期間という時間制限があると言われています。また、不法行為の損害賠償請求権には消滅時効(損害と加害者を知ってから3年)もあります。「検討する時間を確保するために、まず弁護士に相談して証拠保全と選択肢を確認しておく」という動き方が、結果的に選択の自由を最も長く保てます。

弁護士を検索から、ネットトラブルの取扱いがある弁護士を地域で探せます。電卓を叩くのは、選択肢が揃ってからでも遅くありません。ただし、選択肢を揃えるのは早いほうがいい。それがこの問題の時間構造です。

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