「自分で納得して買ったんだから、自己責任ですよね」
副業詐欺や情報商材トラブルの相談で、被害者自身がよく口にする言葉です。しかし、この認識は法律的には正しくありません。日本の法律は、うその説明や不当な勧誘で結ばれた契約について、後から取り消したり解除したりする手段を複数用意しています。「申し込みボタンを押したのは自分」であっても、その判断の前提が偽りだったなら、話は別なのです。
典型的な流れはこうです。SNSで「スマホだけで月収数十万円」といった広告を見て、数千円〜数万円の情報商材を購入。すると「あなたは見込みがある」「本気で稼ぎたいなら」と電話やビデオ通話に誘導され、数十万円のサポートプランやコンサル契約を勧められる。断りきれずに契約したが、中身は薄く、稼げる気配もない——。本当に高額なのは最初の商材ではなく、その後の「バックエンド契約」であることがほとんどです。
返金を求める法的な根拠にはどんなものがあるか
「返金してほしい」と伝えるとき、根拠があるのとないのとでは相手の対応が変わります。主な根拠を知っておきましょう。
- クーリングオフ(特定商取引法):電話で勧誘されて契約した場合(電話勧誘販売)は、法定書面を受け取った日から8日間、無条件で解除できます。「仕事を提供するから機材や教材を買って」という形(業務提供誘引販売取引)に当たる場合は20日間です。ネット広告から自分でアクセスして買っただけの通信販売にはクーリングオフはありませんが、電話やビデオ通話での勧誘が挟まっていれば適用の余地が出てきます。契約に至る経緯を時系列で整理することが第一歩です。
- 消費者契約法による取消し:「確実に稼げる」「今日契約しないと枠が埋まる」など、事実と異なる説明や不安をあおる勧誘があった場合、契約を取り消せる可能性があります。
- 詐欺・錯誤による取消し(民法):そもそも稼がせる実態がなく、だます意図で勧誘していた場合です。
どれに当たるかの判断は簡単ではありませんが、「自分の場合はどれが使えそうか」という視点で経緯をメモしておくと、相談がスムーズになります。
決済方法別・現実的な動き方
法的根拠と並んで重要なのが、お金の流れを止める・巻き戻す実務です。
- クレジットカードの分割払い(3回以上)やリボ払い:割賦販売法の「支払停止の抗弁」により、販売業者とのトラブルを理由にカード会社への支払いを止められる場合があります。カード会社に書面で申し出る制度です。
- クレジットカードの一括払い:支払停止の抗弁の対象外ですが、カード会社に事情を伝えてチャージバック(売上取消し)を相談する余地があります。対応はカード会社と事案によります。
- 銀行振込:振込先が詐欺に使われている口座であれば、金融機関への通報と口座凍結の依頼を検討します。
- 後払い決済・キャリア決済:決済事業者の窓口に、トラブル中であることを早めに伝えてください。
いずれの場合も、「業者と揉めているから」と何の連絡もせず支払いを止めるのは避けてください。信用情報に傷がつくなど、別の不利益が生じかねません。止めるなら、制度に沿って書面で。
返金請求の進め方(時系列で)
- 証拠を固める:広告の画面、LINEやメールのやり取り、契約書・申込画面、決済記録、商材の中身。業者がアカウントを消す前にスクリーンショットを。
- 契約の経緯を書き出す:いつ広告を見て、いつ誰とどんな通話をし、何と言われて契約したか。勧誘文句は一言一句が重要です。
- 業者に解除・取消しの通知を送る:口頭ではなく、記録が残る形(メール+内容証明郵便など)で。クーリングオフ期間内なら、理由を書く必要はありません。
- 決済事業者に並行して連絡する:上記の支払停止の抗弁やチャージバックの相談です。
- 応じない場合は外部の力を借りる:消費生活センターのあっせん、または弁護士による交渉・訴訟です。
消費生活センターで足りるケースも多い
すべての案件で弁護士が必要なわけではありません。局番なしの188(消費者ホットライン)から繋がる消費生活センターは無料で、業者との間に入るあっせんも行っています。業者に連絡がつき、金額が比較的小さく、クーリングオフや取消しの主張が立てやすい事案なら、センターだけで解決することも珍しくありません。
一方、次のような場合は弁護士への相談を検討する段階です。
- 金額が大きい(数十万円以上)
- 業者が連絡を絶った、所在が分からない
- 「弁護士を通してくれ」と開き直られた
- 借金やローンを組まされている
弁護士費用は事務所により異なります。着手金と成功報酬の仕組みを含め、費用相場で事前に感覚をつかんでおくと、見積りの妥当性を判断しやすくなります。依頼先を探す際は、消費者被害の取扱いが多い弁護士を弁護士を検索で絞り込むとよいでしょう。
最後に——「取り返す前に、追加で払わない」
副業詐欺の業者は、解約を申し出た人に「違約金が発生する」「解約するならコンサル料の残金を一括で」などと逆に請求してくることがあります。その請求自体に法的根拠がないことも多いので、言われるまま払わず、必ず相談窓口を挟んでください。被害を止めることが、返金請求の前提です。